公共交通壊滅元年

いささか旧聞に属するが、何としても書いておかねばならない。

昨年末、政府(財務省国土交通省)は、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の特例業務勘定に係る利益剰余金について、総額約1兆4000億円の内、1兆2000億円を来年度中に国庫納付させることを決めた。いわゆる独立行政法人の「埋蔵金」として、国民年金の国庫負担分の財源に充てるため、民主党の「事業仕分け」で、「国庫返納」とされていたものである。

しかし、この決定は、理論的にも政策的にも、とうてい正当化できない暴挙といわざるを得ない。

そもそも、同機構の利益剰余金の原資は、旧国鉄の用地売却益や、国が保有していたJR本州3社株式の売却益等であり、「国鉄改革」の一環で生まれた、鉄道再生のための資金として位置付けられる。政策論でいえば、例えば、国鉄の長期債務処理に当たって、国民負担とされた分についても、この資金を活用し、一般会計において処理する額を少なくする途もあり得た。けれども、そうではなく、国鉄清算事業団の業務を承継した同機構の資産として引き継がれたのは、鉄道再生に活かすためであった。そうであるならば、鉄道再生のための資金を年金の財源不足の穴埋めに費目流用するなど、国家ぐるみでの「業務上横領」に等しい。

もとより、国鉄改革当時、国民にも痛みを求めた経緯があり、現下の経済情勢にかんがみて、鉄道再生より大なる国民経済上の利益のために、鉄道再生に充てるべき資金をやむなく拠出するというのなら、まだ話は別である。

しかし、政府・与党は、一方において、高速道路無償化に象徴される「バラマキ」政策を進め、受益者費用負担原則を無視し、経済上の合理性を欠く公金投入を止め処なく行い、その結果、民間企業であるJRグループが運営する鉄道を疲弊させ、マクロでの輸送単位当たりのCO2排出量も増大させているのである。選挙民の歓心を買うことにばかり熱心で、政策の自己矛盾に気付かない為政者の精神分裂は、もはや、手の施しようがない。

通常国会では、いわゆる「交通基本法案」が審議入りの予定で、そこでは、「交通弱者に対する移動権保障」と「環境負荷の軽減」が謳われることになっている。法文上、いかに美辞麗句を並べ立てても、実際には、それに逆行する政策を推し進めているのだから、この国の公共交通がたどる行く末は、絶望的なものでしかありえない。