理系社長への期待

昨日、JR西日本の新社長に、山崎正夫副社長が内定した。山崎氏は、東京大学工学部卒業後、昭和41年に日本国有鉄道入社、国鉄分割民営化でJR西日本に移り、常務取締役・鉄道本部長などを務めた。平成10年に子会社のジェイアール西日本メンテック(駅構内や車両の清掃などを担当)に転出していたが、福知山線の事故後、鉄道での経験を買われ、本社に呼び戻され、安全対策担当の副社長に就いていた。

この度のJR西日本役員人事をめぐっては、マスコミや、事故の遺族の方(あるいはマスコミに踊らされているのか)が、南谷会長・垣内社長の辞任時期が、早いだの遅いだの、不毛な議論を繰り広げているが、そんなことはどうでもよい。

むしろ注目したいのは、「理系」出身の山崎副社長を社長に起用したこと。JR西日本の社長は、歴代ずっと、「文系」社長が続いており、「理系」は山崎氏が初となる。

鉄道は、施設・電気・信号・車両・通信などの各分野を統合した「システム産業」であり、技術革新の欠かせない、本質的に「理系」的な仕事だ。もちろん、企業全体の舵取り役は「文系」でもいいが、あまりに「文系」偏重(さらにいえば、経営重視・技術軽視)ではないかと思っていた。たとえば、現在のJR西日本の取締役は10人だが、「運転士」の資格を持っている人は1人しかいない。

もちろん、役員に、普段から電車の運転をせよ、などというのではない。ただ、「現場」との距離が問題だと思う。鉄道会社に「総合職(事務系)」で入ると、最初こそ現場研修があるが、その後は他の一般企業と大同小異のキャリアを歩む。たまに、駅や車掌区などの現場に、管理者や現場長として赴任することはあっても、仕事は営業や労務管理が中心で、「鉄道らしさ」はあまりない。

しかし、総合職(技術)の人たちは、専門分野にもよるが、生涯を「鉄道」に捧げるキャリアステップが中心だ。よく、「社会に出れば、文系も理系もない」などと、物知り顔に言う人もいるが、現実はそうではない。

会見で、抱負を尋ねられた山崎氏は、「鉄道事業をどう再構築するかという視点に立ち、組織的に現状と違った形にしたい。鉄道本部を強固にするつもりだ」と、述べた。

南谷さんや垣内さんが、ことさら鉄道を軽視していたとは思わない。しかし、事業の多角化を志向する発言はあっても、山崎さんのような「地に足をつけた」言葉を聞いたことはなかった。

以上、心は根っからの「鉄道屋」なのに、それになりそびれた者(つまり私)の感想である。