安全憲章を読む

一昨日、JR西日本は、昨年4月の福知山線列車事故の反省に立ち、「安全憲章」を定めた。

私たちは、2005 年4 月25 日に発生させた列車事故を決して忘れず、お客様のかけがえのない尊い命をお預かりしている責任を自覚し、安全の確保こそ最大の使命であるとの決意のもと、
安全憲章を定めます。
1.安全の確保は、規程の理解と遵守、執務の厳正および技術・技能の向上にはじまり、不断の努力によって築きあげられる。
2.安全の確保に最も大切な行動は、基本動作の実行、確認の励行および連絡の徹底である。
3.安全の確保のためには、組織や職責をこえて一致協力しなければならない。
4.判断に迷ったときは、最も安全と認められる行動をとらなければならない。
5.事故が発生した場合には、併発事故の阻止とお客様の救護がすべてに優先する。

というものである。鉄道会社として、至極当たり前のルールで、今までなかったほうが、どうかしていた。

ところで、上の「安全憲章」を、次の規定と見比べてみてほしい。

1.安全は、輸送業務の最大の使命である。
2.安全の確保は、規程の遵守及び執務の厳正から始まり、不断の修練によって築きあげられる。
3.確認の励行と連絡の徹底は、安全の確保に最も大切である。
4.安全の確保のためには、職責を超えて一致協力しなければならない。
5.疑わしいときは、手落ちなく考えて、最も安全と認められるみちを採らなければならない。

いかがであろうか。JR西日本「安全憲章」の5項だけが新設規定のほかは、酷似している。否、若干表現が変わっただけで、「同一」といってよい。

実は、下の5箇条からなる規定は、かつて日本国有鉄道が定めた「安全確保の綱領」である。

私は、JR西日本の「安全憲章」が、国鉄の「安全綱領」の丸写しであることを、批判しているのではない。むしろ、その逆である。

国鉄改革で誕生したJRグループ各社は、国鉄の轍を踏むまいと、国鉄を「反面教師」としてきた。確かに一面では、それはJRの成功につながった。新幹線や特急列車は、見違えるほど綺麗になり、都市圏の輸送サービスは飛躍的に向上した。だが一方で、国鉄の全てを「悪」とみなす風潮がゆきすぎ、JRの一部の職場などでは、明治以来の貴重な資料まで、廃棄されたりもした。

そうしたなかで、国鉄マンの誇りだった「鉄道魂」といった精神的支柱まで、失われつつあったのではないかと思う。

JR西日本が4月1日から施行する「安全憲章」に、国鉄時代の「安全綱領」が復活した意義は、小さくない。安全は、輸送業務の最大の使命である。