明日、注目の判決

以前、阪急梅田駅で宗教の勧誘を受けたエピソードで取り上げた「鉄道営業法第35条」が、今日の憲法の授業で登場。

「鉄道係員ノ許諾ヲ受ケスシテ車内、停車場其ノ他鉄道地内ニ於テ旅客又ハ公衆ニ対シ寄附ヲ請ヒ、物品ノ購買ヲ求メ、物品ヲ配付シ其ノ他演説勧誘等ノ所為ヲ為シタル者ハ科料ニ処ス」

ある私鉄駅構内で、無許可でビラ(「5・5狭山闘争勝利武蔵野三鷹集会に結集しよう!」)まきをしたとして、本条違反で起訴された被告人が、本条による処罰は、「表現の自由」を保障した憲法21条1項に違反する、などと屁理屈をこね、最高裁に上告した。

最高裁は、「鉄道営業法三五条及び刑法一三〇条後段の各規定を適用してこれを処罰しても憲法二一条一項に違反するものでないことは、当裁判所大法廷の判例の趣旨に徴し明らかであつて、所論は理由がない」と、一刀両断に上告を棄却した(最高裁昭和59年12月18日判決刑集38巻12号3026頁)。

教授が、
「ところで、この事件、どこの鉄道であった事件か調べてきた人いますか?東急だったかな?」
と、雑談口調で尋ねられた。

その瞬間、クラスの半分くらいの顔が、一斉に私のほうを向いたような気がした(事実、そうなのだが)のは、言うまでもない。

教科書の引用部分にも「井の頭線吉祥寺駅」とあるので、京王(当時は京王帝都)電鉄なのは「趣旨に徴し明らか」だが、そんなことを嬉々として発言するのもどうかと、苦笑していたら、私の後ろの席の人が、代わって「京王」と答えてくれた。ご名答である。

さて、話は変わるが、明日、最高裁で、注目の判決が言い渡される。平成11年4月、山口県光市のアパートで、当時18歳だった被告人に、当時23歳の主婦が強姦のうえ殺害、生後11ヵ月の女児も殺害された事件である。

検察官は死刑を求刑したが、一審・山口地裁と控訴審・広島高裁は、「殺害に計画性はない。被告人は精神的に未熟で更生可能性がある」などとして、無期懲役を選択。これに対し、検察官が、死刑を求めて上告した。

実は、最高裁の判断は、読めなくはない。最高裁は、法律問題を扱う「法律審」なので、原審(広島高裁)の判断を維持するのが相当と考えたときは、弁論を開かずに審理する。ところが、本件では、弁論が開かれており、原審の判断(無期懲役)が覆り、検察官の上告が認められる可能性が高い。

本件は、この被告人を死刑にせずして、何のための死刑制度か、ともいうべき、同情の余地の全くない事案である。最高裁の良識に期待したい。