ふるさとの訛りなつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく

当地に,鉄道好きの女性裁判官がおられる。私が,「鉄道をこよなく愛す」人種であることは,すでに公知の事実となっているから,金曜日の飲み会の席で,その方から,鉄道ネタを振ってこられた。

「日本で最初に自動改札機が導入されたのは,阪急北千里駅
東京地裁の民事執行センターが出している会報は『さんまエクスプレス』というタイトルだが,私は絶対,500系新幹線のことだと思う」
 (注,正しくは,同センターが目黒にあるから,だそうである)
………。

これまでお目にかかれなかったのが惜しいほど,話が合う。趣味も同じときたら,お互い,関西人で,大学の先輩・後輩でもあることも判明。

「こっち来てから,電車に乗りました?鉄分は足りてますか?」

裁判官の人を見る目はさすがである。秋田に赴任してからの2週間,鉄道とは無縁の生活で,貧血気味になりつつあった。

そういうわけで,今日はどこかへ行こうかと思ったが,昨夜帰宅したのが1時を過ぎていたため,「乗り」は断念し,「撮り」に行くことにした。

秋田から,奥羽本線花輪線を通って,鹿角花輪(かづのはなわ)まで行く「よねしろ」という急行(正確には,現在は愛称名なしの快速列車)が,1日1本走っている。上りの秋田到着は9時56分,秋田駅の一つ北隣の土崎駅の近くに,線路をすっきりと見渡せる「お立ち台」があることは,調べてあった。

トートバッグに,カメラと望遠レンズを詰め込み,9時05分発の奥羽本線下り・八郎潟ゆき普通列車に乗るべく,20分歩いて秋田駅へ。

駅の空気というのは,いいものである。男鹿線用の気動車が止まっている。「カランカランカラン…」というディーゼルエンジンの音が,耳に心地よい。ホームで,思わず深呼吸していると,大阪発青森ゆきの寝台特急日本海」3号が,20分遅れで滑り込んできた。

日本海」は,もう出発済みだと思っていたから,思わぬ出会いに感動する。「日本海」3号の客車はJR東日本の車両だが,機関車は,JR西日本金沢支社福井地域鉄道部敦賀運転派出の所属である。冷たい秋田の空気のなか,温かい関西の風を感じる。

日本海」3号の後塵を拝し,わが普通列車も出発。一駅進んだ土崎駅で降りる。ここには,JR東日本で大宮・長野などと並ぶ大工場・土崎工場(現在の正式名称は秋田総合車両センター)があり,東日本管内の気動車のエンジン整備を一手に引き受けている。

お立ち台は,ちょうど土崎工場の向かいである。私は,手袋をはめた手で,カメラにレンズを装着した。列車の「走り」撮影に,これほどワクワクするのは,初めてだった。