海行かば

いろんなところで言ってることだから、私と少し付き合いのある皆さんは、私がこう言ってるのを聞いたことがあると思います。
「今も大日本帝国憲法の下、帝国海軍があれば、京都帝国大学法学部なんぞには進まず、海軍兵学校に進み、陛下の赤子として…」
こういうことを言うと、女の子ならずともたいてい引かれるわけですが(一人、賛同してくれた人もいますが)、図らずも今日、このことを深く考えさせられました。

先週、NHKが五夜連続で放送したドラマ「ハルとナツ〜届かなかった手紙〜」。主役(ナツ)が仲間由紀恵ということで、ビデオに撮っておいたのですが、きょう、第四話を見ました。戦前、ブラジルに入植した家族。たった一人の息子だけが、ブラジルで帝国海軍の海野中佐に助けられ、予科練に入隊する。昭和27年、日本の敗戦を信じない一家のもとを、中佐が訪ねてくる。

息子はいま、と嬉しそうに問いかける両親に対し、中佐は
「今日は、息子さんをお連れしました」
と、白い布に包まれた軍帽を差し出す。
「特攻隊に志願され、レイテ沖で、見事、敵艦に突撃し、名誉の戦死を遂げられました」

泣き崩れる両親。中佐は、額を床に付けて土下座する。ここで、二流三流の脚本家なら、「戦争のせいでこんなことに」「息子を返して」などと、「反戦平和」的台詞を吐かせて、白けさせるところである。ところが、このドラマはそうではなかった。

気丈にも父親は、
「泣くな!」
と、涙を堪えて立ち上がると、「海行かば」を歌いだす。中佐も、軍帽に向かって敬礼し、唱和する。

海行かば 水漬くかばね
山行かば 草むすかばね
大君の 辺にこそ死なめ
かえりみはせじ
大伴家持作詞・信時潔作曲)

これこそ、日本人の生き方ではないか。私は、映画やドラマでは滅多に泣かないが、このシーンでは、込み上げる涙を堪え切れなかった。