福井ローカル線紀行

stationmaster2006-02-13


今朝早く大阪を出た私は、北陸本線を福井まで北上した。敦賀を出て北陸トンネルをくぐると、辺りは一面銀世界。天気がいいので、サングラスがほしくなる。

福井からは、3方向にローカル線が出ている。JR越美北線と、えちぜん鉄道の2路線である。えちぜん鉄道は、3年前に廃線になった京福電鉄福井鉄道部)を引き取った第三セクターで、旧型車両置き換えなどサービスアップに努め、善戦しているという。えちぜん鉄道には、京福電鉄時代も含め、まだ乗ったことがない。私のライフワークは、旧国鉄の全線に乗ることであり、その対象ではないが、応援したくなる鉄道だ。

福井から、えちぜん鉄道勝山永平寺線に乗り、勝山をめざす。勝山に何があるのか、などと問うてはいけない。私の旅は鉄道に乗るのが主たる目的であり、観光なんぞはついでにするもの、というのは、読者もよくご存じのとおりである。

えちぜん鉄道の列車には、女性のアテンダントが乗務している。運行上の区分はワンマン運転で、「車掌」という扱いではない。だから、ドア操作やホームの安全確認などは、全て運転士が行ない、アテンダントは、車内放送や乗車券の発売に徹している。

私は、阪急や地方私鉄のように、駅員や正規の車掌に「契約社員」という名のアルバイトを起用するのには反対だが(葛西敬之JR東海会長も同旨)、えちぜん鉄道のように「案内係」と割り切ってくれると、いいサービスだなと思う。なにも、アテンダント嬢が、高校を出たばかりと察せられる若い女の子だから、というわけではない。

永平寺口という駅に停まる。京福電鉄時代は「東古市」といい、ここから永平寺までの支線が出ていたが、この旧永平寺線は乗車密度が低く、えちぜん鉄道転換時に廃止された。いまはバスが走っているが、アテンダントが案内したバス時刻まで、40分くらいある。永平寺への観光客らしい初老の夫婦が、「歩いたってしれてるだろう」などと言いながら降りる。「永平寺口」という駅名からは、そうとられても仕方ないが、歩くと数時間を要するはずである。

私は、永平寺には向かわず、そのまま勝山へ。雪が深くなり、九頭竜川が寄り添ってきて、勝山着。勝山の駅は、市街地から川を隔てたところにある。郵便局をめざして、歩き始める。

九頭竜川に架かる橋を渡りながら、私は思わず深呼吸した。彼方に見える雪山、足元には澄んだ水が勢いよく流れる。スキー場の頂上に立った時のような爽快さだ。来てよかった、と思う。旅の感動は、観光地より、こういう何気ないところにこそ転がっている。観光バスで、点と点だけを見て回るツアー旅行では、絶対に味わえまい。

勝山駅近くの食堂で焼き飯の昼食をとり、勝山駅で、えちぜん鉄道オリジナルサービスのコーヒー(1杯100円)で休憩。ちゃんと煎れたコーヒーなので、まあまあうまい。私は、缶コーヒーは、コーヒーを飲まなければ死ぬという状況でない限り、飲まない。もっとも、よく「死にそうな」状況に陥っていることになるのだが。

京福バスで大野に向かう。大野は、JR越美北線の中核をなす町である。雰囲気の良い城下町で、私は何度も来たことがあり、大野城跡にもすでに登った。未訪問の駅近くの郵便局にだけ立ち寄る。しかし、その暑いこと。気温は9℃くらいだが、雪原からの照り返しもあって、黒のジャケットを着ていると汗ばむほどだ。

越前大野からの上りは15時までないので、いったん下りに乗って、1つめの越前田野で降りる(もちろん、乗車券はちゃんと別に買っている)。この駅と、次の越前富田との中間に、郵便局が1局あることは、調べ上げてある。上りが来るまでの1時間で、一駅散歩しようと思う。

裏道は除雪されてなくて通れず、遠回りを強いられたが、郵便局は難なく到達。ゆうパックの宣伝の、なかなかそそらせるポーズをとった松浦亜弥の等身大ポスターが無造作に置いてあり、持ち去りたい衝動に駆られたが、理性で抑える。

いま来た道とは反対方向に歩き、越前富田駅をめざす。ところが、しかるべき辺りに着いたが、駅が見当たらない。めざす駅はホームが一面あるだけの無人駅、非電化の越美北線では、架線を頼りにすることもできない。旅先で、バス停の場所に迷うことはよくあるが、駅を探すというシチュエーションは、そうそうあるものではない。

道端のコインランドリーならぬ「コイン精米所」(田舎に行くとよくある)で作業中のおばさんに声をかけ、聞き込み。いつの間にか通り過ぎていたようで、「プロパン屋の角を左」と教えてくれる。100メートルほど引き返して、言われたとおりに左折すると、雪に埋もれた駅が見えた。ふつう、道路から駅に通ずる角には、案内板が立っているものだが、そういう類のものは一切ない。

程なくやってきた上り列車(1両ワンマンカーだから「列車」では変だが)で、美山へ。越美北線は、2年前の福井豪雨で、足羽川に架かる複数の鉄橋が押し流されるなど、甚大な被害を受けた。JR西日本廃線も示唆したが、地元が工費の大半を負担する条件で、復旧が決まった。現在、一乗谷〜美山間が不通で、この区間代行バスがリレーしている。

美山から代行バスに乗り換えたのは、わずか6人。当然赤字だろう。JRが気の毒になるが、高校生の通学時間帯は乗り切れないほどで、続行便も出るという。ユンボが忙しく土砂をかき出し、護岸工事が急ピッチで進むなか、無残に引きちぎられた鉄道橋は、手付かずで放置されていた。

代行バスは、駅前スペースの関係で、不通区間より一駅福井寄りの越前東郷まで入る。越前東郷では、すぐに列車に接続するが、乗り換えの実情を取材したい私は、ここでいったん「下車」することにする。乗車券を駅員に渡し、「東郷までです」と言う。乗り換え客と思われると、駅員が列車に出発指示合図を出すのに困るだろうからだ。

次に福井から到着する下りは、1時間後。まず、近くの郵便局まで往復。よくある掘割りが、水郷ふうのしゃれた構造に整備されている。観光客が来るわけでもないだろうが。

駅に戻り、折り返し待ちのJRバス運転士と立ち話。旅先で、路線バスの運転士と話す機会は、意外と多い。しばしば「貸切」状態になる過疎路線に、私が好んで乗っているせいもあるが、なかでもJRバスの運転士とは、ことのほか話が合う。今日も、興味深い話をいろいろ聞け、気づくと40分以上話し込んでいた。時計を見て、運転士ともども驚く。

下り列車が着くと、高校生が次々と吐き出されてきた。福井の女子高生は、かわいい子が多い。美人で名高い秋田より、その含有率は高いように思われる。

陽は傾き、肌寒くなってきた。高校生は小走りにバスに乗り換えている。そんな光景を眺め、私は折り返しの上り列車で、福井に戻った。

福井からは、普通列車で2時間かけ、富山へ。車窓は真っ暗なので、携帯で今日の日記(すなわち、いまお読みの駄文である)を書く。退屈するのを覚悟の区間だったが、携帯でこれだけ打つのに、たっぷり2時間かかった。

写真は、越美北線・越前田野駅