その狂気、やむことなし!

お昼ご飯を食べた後、いつものように生協の本屋を巡回していると、文庫コーナーで『津山三十人殺し−日本犯罪史上空前の惨劇−』という本が目に留まり、「即買い」した。

津山三十人殺し昭和13年に、鳥取県との県境に近い岡山県苫田郡西加茂村(加茂町を経て、現在は津山市と合併)で起きた連続殺人事件だが、あまり知られていない。だが、推理小説の好きな人なら、横溝正史八つ墓村』のモデルになった事件、といえばわかるかもしれない。

もちろん、『八つ墓村』はフィクションだが、戦時中、岡山に疎開していた横溝は、この事件を聞き知り、「とにかく、これほどの事件があったとは知らなかった。あまりの惨虐な事件だけに、いつかこの事件を題材にしたものを書いてみようと思った」と記している。

この事件を紐解くと、当時の風俗の一端が垣間見える。テレビなどのなかった時代、山村における唯一の娯楽は、ずばり男女のセックスだった。戦前、男女の関係は、今よりはるかに厳しかったイメージがあるが、それは一部の話。多くの地方では、「貞操」という観念そのものがなかった。

この事件についてまとめたウェブサイトは、出来不出来はともかく、数多くあるので、興味のある人は各自調べていただくとして、私がこの事件と出合ったきっかけを話しておく。

平成10年の春、私は、JR因美線の列車で、ある家族連れと相席になり、世間話をしていた。

列車が、美作加茂の駅に止まった時、奥さんが、こんなことを言った。

「ここ、『八つ墓村』の事件があったところよ」

一瞬、何のことかわからず、私は「はい?」と聞き返した。

「『八つ墓村』っていう推理小説があるでしょ?あの話は、ここで本当にあった事件なのよ」

「事件」と聞けば、血が騒ぐ。調べずにはいられない。インターネットなど、まだ普及していなかった当時、私は、必死に「捜査」した。なんとしても、「真実」を知りたい。

結果、事件の驚くべき真相を知った私は、翌・平成11年の夏、ひとり、美作加茂駅に降り立ったのだった。