議員パス―何か問題でも?

国会議員の事実上の「特権」の一つである「JR全線パス」について、「利用実態が不明」などという批判が上がっている。

国会議員JRパス:年5億円支出…利用実態把握しないまま

自由にJRを利用できるよう国会議員に支給される「JR無料パス」について、利用実績を把握しないまま衆参両院から費用として毎年約5億円がJR6社に支払われている。衆参両院は「過去の利用や議員数を念頭にして算出している」と説明するが、実際の利用状況の把握は難しいのが実情で、ずさんな公費支出との批判が上がりそうだ。

無料パスは国鉄時代には、国鉄側の持ち出しだったが、87年にJRが発足して以降は、衆参両院から貨物を除くJR6社にパスの購入費が支払われている。05年度の支払額は衆院から3億2734万円、参院1億7377万円で、ここ数年は大きな変動はない。利用目的について、国鉄時代は旧国鉄法で「(国会の)会期中、及び公務のため」していたが、公費負担となった現在は明確な規定はない。

支払額は87年のスタート当初は衆参両院で計6億円だった。この額について衆院は「83年の運賃・料金調査をもとにその後の運賃改定などを勘案して算出した」と説明。その後、議員定数減や航空クーポンとの選択制が導入されたことから約1億円減額され、現在の水準となった。722人の国会議員のほとんどが希望し、1人あたり年間約70万〜80万円の計算となる。

無料パスの利用方法について、駅か旅行代理店で指定券を予約する場合もあるが、「パスを改札口で見せて新幹線の席に適当に座っている」(衆院議員)という人もおり、実態把握はきわめて難しい。衆参両院も職務のために利用しているか確認はしていない。

JR各社への支払額は各社間の調整で決められるが、毎日新聞の取材にJR北海道は「過去の実績から想定される額」、JR東海も「利用実態に見合った適正な金額」と回答したが、JR西日本は「実際の利用状況とかけ離れている可能性もある」と話す。JR6社とも、税金から支払われているにもかかわらず「個別の契約について明らかに出来ない」と購入額や根拠を明らかにしていない。

一方、JRパスと並行して支給される航空券引換券は、東京と選挙区との往復に用途が限られ、使用しなかった分は返還しなければならない。【青島顕】

▽元無所属参院議員の紀平悌子さんの話 経費がどれだけかかっているか調査したうえで、国民が納得するルールを作るべきだ。議員活動に必要な経費は払っていいが、公務外などは自費でまかなうべきだ。この問題が、議員間で近年ほとんど議論されていないのもおかしい。また、JRパスなどと別に議員に支払われている文書交通通信滞在費(月100万円、非課税)をやめるべきだ。

◇JR無料パス 国会議員が公務でJR全線に乗ることの出来るカード。グリーン車にも乗れる。(1)JRパスのみ(2)JRパス+東京と選挙区との月3往復の航空券引換券(3)月4往復の航空券−−のいずれかを議員が選択する。毎年4月に1年間有効で発行される。
毎日新聞より)

全線パスなのだから、利用実態を細かく把握することは運賃計算上必要なく、このような批判は、何を今更、という感がある。

現在、議員パスについては、衆参両院が定額をJRグループに支払っている。JRグループ各社間での具体的な配分は、明らかにされていない。JRグループは、JALやNTTなどの企業グループとは異なり、持株会社に各社がぶら下がる構造とはなっていない。JR各社間に資本関係は全くなく、単に「国鉄が母体」という精神的つながりだけの、「兄弟」会社である(ただし、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(JR会社法)平成13年改正附則2条以下
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S61/S61HO088.html参照)。

記事中では、独りJR西日本が「利用状況とかけはなれている」などとコメントしているようだが、これは、議員へのパス配付じたいの是非というより、自社への分配額に対する(わかりやすく言えば、JR東日本JR東海への)不満と読むべきだろう。

結論からいえば、議員パス制度は続けてよいと考える。なぜなら、パス制度がなくなれば、国会議員はますます鉄道を利用しなくなるだろうからだ。仮に、「パスがあるから」という理由でもよい。鉄道を大いに利用していただき、その実情を理解していただくことが、鉄道輸送の発達につながり、ひいては国民経済にも資することとなるのである。