雨のち晴れ、時々虹

宮津線車内より


12月31日まで、JAL国内線では、2つのボーナスマイルキャンペーンを実施している。「パワーアップボーナスマイルキャンペーン」と、「ステップアップボーナスマイルキャンペーン」である。

「パワーアップ」は、期間中の国内線搭乗回数に応じて、1000マイル(2回)から1万マイル(7回以上)、「ステップアップ」は、1500マイル(3回)〜1万マイル(10回以上)のボーナスマイルが貰えるというものだ。2つのキャンペーンは併用可能で、3回乗れば、「パワーアップ」で3000マイル、「ステップアップ」で1500マイル貰えることになる。

そこで、この機会に、来年3月に廃線になる「くりはら田園鉄道」(宮城県)に乗りに行くことにした。私は、北東北(青森・岩手・秋田の3県)が好きで、何度も旅したことがあるが、南東北は、素通りしがちだった。仙台まで飛び、くりはら田園鉄道と、周辺のJRローカル線を取材してこよう。

ところが、仙台単純往復では、搭乗は2回にしかならない。あと1回乗れば、プラスして3500マイル(合計4500マイル)貰えるのだ。ここは、飛ぶしかない。

そこで、先日の日曜日、コウノトリ但馬(豊岡)へ飛んだ。但馬は、大阪からいちばん近いデスティネーションで、70マイルしかない。その分、運賃も安く、「先得割引」なら6500円である。さらに今なら、「先得割引ボーナス」もあり、500マイル貰える。1回プラスして飛ぶだけで、ボーナスマイルの合計が、5000マイル。JALのマイルは、うまく使えば「1マイル=3円」くらいの価値はあるので、6500円の運賃に対し、JALからの「キャッシュバック」が1万5000円相当ということになる。

日曜日の朝、早めに起床し、いつものように窓を開けて、空を眺めた。私は、天気予報が好きだが、自分の目で空を見ると、天気予報ではわからないことも、いろいろわかる。

快晴で、霞みも全くない。望遠レンズを鞄に入れ、少し早めに家を出た。大阪空港のターミナルビル(展望デッキ)側から、テイクオフしてゆく飛行機を順光で撮影できるのは、朝早い時間だけである。但馬ゆきは9時ちょうど発だが、それまで飛行機の撮影をしようと思う。

8時すぎに伊丹に着き、自動チェックイン機でチェックイン。普段は、移動中に携帯から「WEBチェックイン」を済ませるが、但馬線に就航するSAAB340Bは、36人乗りのプロペラ機で、大型ジェット機とは異なり、乗客の「乗り」によって、重心位置が大きく変わる。そこで、当日、空港でしかチェックインできないのだ(事前座席指定もできない)。

1時間前にチェックインしたのに、後方通路側しか空いていない。東京からの乗り継ぎ客が多いようだ。私は、国内線では窓側に座り、地形観察するのが好きなので、残念だ。

気を取り直して、展望デッキに出る。伊丹は、今年4月から、B747(いわゆる「ジャンボジェット」)の乗り入れが規制され、趣味的にはつまらなくなった。だが、現在の主力・B777-300のスラリと伸びた胴体は、非常に美しい。かつて(1970〜80年代)、DC-8が「空の貴婦人」と呼ばれたものだが、現代の「空の貴婦人」はB777-300だと思っている。

青々とした空へ、気持ちよさそうにエアボーンしてゆく飛行機を見ていると、見ているほうも晴れ晴れしてくる。「JAL派」の私は、写真を撮るときも、JALの機体は撮っても、ANA機は無視したりするのだが、ついついシャッターを押してしまう。

成田ゆきのJAL3002便を見送る。海外取材時、何度もお世話になったこの便は、国際線乗り継ぎ用で、機材も国際線用のB777-300ERが使われる。今年3月までは、ウィングレット主翼先にある、空気抵抗軽減用の小さな羽根)の付いた国際線用B747-400が使われていた。777-300は美しいのだが、747-400には、フラッグシップとして他の追随を許さない貫禄があっただけに、淋しさは否めない。鉄道にたとえるなら、前者はJRのスマートな新型車両、後者は重厚な「国鉄型」、とでもいおうか。

但馬ゆきの出発20分前になったので、撮影を切り上げ、手荷物検査場へ。平日朝の伊丹は、手荷物検査場が大混雑するが、日曜日で空いているのを確かめておいた。

カメラを手に持ち、「オープンでお願いします」と、セキュリティ係員に頼んだ。

「オープン」とは、X線透視装置に通さず、係員による開披(目視)検査を受けることで、フィルムの類は、いつもそうしてもらっていた。日本の検査場の機械には、「ISO1600の高感度フィルムにも影響を与えません」などと書いてあるが、微妙な粒子荒れ(デジカメでいうと、解像度を下げた感じになる)は、どうしても避けられない。

ところが、セキュリティの係員は、「それはできません」などと言う。国内の空港で、オープンの検査を断られたのは初めてだ。あの「9.11」テロ直後も、こんなことはなかった。

「いつもやってもらってますよ」と言い返すと、
「航空会社の方を呼んできます」

後ろで眼を光らせている警察官を呼ばれなかったのは幸運だったのかもしれないが、ともかく、JAL若い女性スタッフが飛んできた。
「お客様、先般の警備態勢強化により、カメラについてはオープンの検査は承れなくなりました」

それならそれで、予めアナウンスしておいてくれないと困る。どこのテロリストが、36人乗りの但馬ゆきをハイジャックなんかするものか、自意識過剰ではないか、と思ったが、航空会社ともめて、「Remarks」(要注意人物)がつくのも厄介である。

仕方なく、X線透過機に通すことを承諾。予想外に時間がかかったので、「ファイナルコール」(「但馬ゆきは、まもなく出発いたします。お客様は、お急ぎ、○番ゲートへお越しください」)を聞きながら、23番ゲートへ急ぐ。

ゲート付近には、まだ2、3人の客がいるので、ほっとする。1人だけ遅れて乗り込んで、他の客から白い目を向けられるのは、気分がよいものではない。

バスで飛行機まで移動し、備え付けのタラップを上がる。小型機なので、ボーディングブリッジはもちろん使えない。背をかがめるようにして、機内に入る。

36人乗りの機内は、満席だった。「乗らずもがな」の筆頭は私のわけだが、但馬などへ、皆さん何しに行くのか、と思う。

伊丹の短い滑走路から離陸し、いったん南へ旋廻後、武庫川上空で、北北西に針路を取る。プロペラ機は、巡航高度が低く、地形が手に取るようにわかる。長年の鉄道旅行の経験で、地上の「インデックス」は、頭に叩き込まれている。

JR福知山線に沿って北上し、三田の手前で西に分かれ、10分ほどすると、播但線に達する。離陸から15分で、再びシートベルトサイン点灯。兵庫県を縦断するのに、鉄道だと、特急でも1時間かかるのだが、飛行機は速い。

典型的な冬型の気圧配置で、日本海側には、どんよりとした雲が垂れ込めている。客室乗務員が、「但馬地方の天気は、雪、気温は、摂氏2℃でごさいます」と放送する。

揺れるな、と思っていると、案の定、降下中はかなり揺れた。昔は、乱気流に遭遇すると緊張したものだが、世界の空を飛び回るうちに、いやでも慣れてしまい、今では、ジェットコースター感覚で楽しむようになった。

9時31分、離陸から25分で、コウノトリ但馬空港タッチダウン。「JAL国内線に乗る」という、茫漠たる今日の目的は、これで達したわけだが、せっかく豊岡まで来たので、北近畿タンゴ鉄道宮津線(豊岡〜天橋立〜西舞鶴)に乗って、帰ることにする。

宮津線沿線は、パッと晴れたかと思うと、雨が降り出す、の繰り返しで、2時間ほどの間に、虹が車窓に3度も出現した。日本海の冬は、すぐそこまで来ている。