めざせ、理想の高速鉄道

5日、日本の「新幹線」システムを輸出した台湾高速鉄道が、台北近郊の板橋−高雄間で暫定開業した。まずは、開業にこぎつけたことを祝福したい。

多くの報道でも指摘されているとおり、台湾高速鉄道は当初、欧州の高速鉄道のシステム採用を前提に設計されていた。台湾中部での大地震(1999年)後、同じ「地震国」である日本のシステムの優位性が認識され、逆転受注したのだが、それまでに設計された施設・電気システムは「日欧ハイブリッド」仕様となっている。

たとえば、日本の新幹線では、下り線と上り線は完全に分離されていて、片方の線路を工事などで閉鎖し、もう一方の線路だけで「交互運転」する、というようなことはできない(日本では、新幹線の軌道施設の保守工事は、列車運行中は一切行なわない)が、台湾のシステムでは、このような運転方法も可能となっている。一見、日本が遅れているようだが、シンプルな運転取り扱いこそ、事故防止の鍵である。また、破断の危険があり、通常のレールより強度の必要な、ポイント(分岐器)部分のレールには、日本の新幹線ではマンガンを使用しているが、台湾では、通常のスチール(鋼鉄)を採用した。技術指導に協力したJR東海は、「これでは安全を保証できない」と強く主張したが、ポイントの安全性についてはドイツの技術陣が一切の責任を持つ、ということで決着している。

鉄道という装置産業は、ハコを造ってしまえば完成ではない。一日、一日が新たな「開業」であり、未知なる世界への挑戦である。第一線の現場で働く社員の不断の努力はもちろん、叡智を結集して、安全上の問題点を克服してゆかねばならない。日欧の混合システムは不安だ、などと不毛な議論に終始するのではなく、現実を見すえ、技術を磨き上げてゆくことが肝要である。台湾高速鉄道は、前途多難なスタートとなったが、日本の新幹線にも負けない、理想の高速鉄道を創り上げてほしい。