3時間のロシア

見慣れないアドレスから、パソコンにメールが届いた。

読んでみると、1年前、イルクーツクからモスクワに向かうシベリア鉄道の車内で出会った、大学生(日本人)のS君からだった。たしか、慶応の理工学部2回生(当時)だったと思う。モスクワ到着前夜は、食堂車に誘って、ウオッカで乾杯したりもした。

モスクワ・ヤロスラブリ駅で別れた彼とは、その後、お互いの無事帰国の報告を兼ねて、何通かメールをやり取りしたが、1年近く途絶えていた。突然、どうしたのかと思うと、いま、エジプトのカイロにいるという。旅好きは相変わらずのようだ。

なんでも、カイロまでの飛行機がモスクワ経由のアエロフロート(ロシア航空)便で、「3時間だけ、ロシアにいた」ことから、私のことを思い出してくれたらしい。

彼は、こう続ける。
『たった3時間でしたが、ロシアはやはりロシアでした…。そのギャップのためかエジプトがすごくいいとこに感じます(笑)』

「ロシアはやはりロシアでした…。」の、「…」がいい。言外のメッセージが伝わってきて、思わず、ニヤリとしてしまう。

私にとって、5月に司法試験を控えた今春は、残念ながら海外へ出かけている余裕はない(2週間前に、北海道を3日間だけ旅はしたが)。この時期、ずっと日本にいるなど、平成14年以来、5年ぶりである。

自分が旅に出られない身の上で、旅先からのメールが妬ましいかというと、そんなことは全くない。純粋に、羨ましくはあるが、「いい旅をしろよ」と思う。S君からのメールには、「3時間のロシア」の空気が、たっぷり詰まっている。それと、遥かなる「アフリカ」の匂いとが。

私はさっそく、返事を書いた。

「私は、6月、試験が終わったら、ケニアタンザニアに行く予定です…」