サラエボの銃声

26日、オランダ・ハーグにある国際司法裁判所(ICJ)が、2007年に入って最初の判決を言い渡した。

「ジェノサイド条約適用事件」
原告 ボスニア・ヘルツェゴビナ
被告 セルビア(提訴当時はユーゴスラビア連邦セルビア・モンテネグロを経て、セルビアが訴訟承継。モンテネグロは訴訟脱退)

Application of the Convention on the Prevention and
Punishment of the Crime of Genocide
(Bosnia and Herzegovina v. Serbia and Montenegro)


本件は、1992年以降、旧ユーゴ崩壊過程のボスニア・ヘルツェゴビナで発生した大量虐殺(ジェノサイド)をめぐり、原告が、被告の行為はジェノサイド条約・国際人道法・国連憲章国際慣習法に違反するとして、その違法性確認と損害賠償を求めた事案である。

いわゆる「ボスニア紛争」であり、ニュースなどでご記憶の方も多いと思うが、1995年12月までの3年半に渡った内戦で、死者は20万人、難民・国内避難民は200万人に上り、戦後欧州では最大の被害を出した。1984年には冬季オリンピックも開催し、華やかだったサラエボの街は、廃墟と化し、隣り合って暮らしてきた市民どうしが、民族・宗教の違いで殺し合う光景は、世界中に衝撃を与えた。当時多用された「民族浄化」(ethnic cleansing)という言葉に、改めて戦慄を覚える。

注目のICJ判決全文は、
こちら

351ページにわたる大部で、読むのはなかなか大変である(司法試験「国際法」選択者にとって、試験対策との関係ではほとんど不可能)。

そうと知ってか知らすが、ICJ自ら、「判決要旨」も公表してくれている。

日本の国内裁判所の判決の形式に慣れていると、そのスタイルに面食らうかも知れないが、国際場裏における全権大使になったつもりで、一度読んでみるのもよいだろう。

今回の判決は、結論において、被告(セルビア)による国家的なジェノサイド行為、および、ジェノサイド条約違反は否定したものの、ボスニアにおける具体的なジェノサイド行為を認定し、被告は、これを防止する義務に違反した、と認定した。

日本的にいえば「請求一部認容」だが、賠償請求については、判決による義務違反の確認が、国家責任解除の手段としての「サティスファクション」(satisfaction 精神的満足)を構成するとして、金銭賠償は棄却した。

ちなみに、本判決で補足意見も書かれている"Judge Owada"とは、日本国選出の小和田恆判事(元日本国国連代表部大使。皇太子妃殿下のお父上)である。