国際法のススメ

大学の法学部で開講されている実定法科目(実際に社会に通用している法の解釈を行なう科目)のなかで、「国際法」は、不思議と人気がない。無理もないところがある。今でこそ、新司法試験の選択科目の一つにも採用されているが、多くの実務法曹にとっては、国際法など、一生のうちに一度関わりがあれば、よいほうかもしれない。法曹に限らず、実務で圧倒的に必要なのは、労働法・倒産処理法などであろう。

だが、誤解を恐れずあえて言えば、民法会社法を知らなくとも、国の舵取り役は務まるが、国際法を知らずして、天下国家を論じることはできない。憲法9条の解釈をめぐる、やれ「侵略戦争自衛戦争」だとか、「集団的自衛権」がどうの、などという不毛な議論は、国際法平面において、意味を失うのである。憲法9条1項は、慣習国際法上の「武力不行使原則」を注意的に規定したにすぎず、同2項は、もはや死文化しており、何の意味もない。それが、国際法からの帰結である。

日本国憲法」の成立過程(「大日本帝国憲法」との法的クリーヴィッジをいかに説明するか)をめぐる議論についても、憲法学界で「通説」としてまかり通る、宮沢俊義教授の「八月革命説」は、国際法の基礎的な理解を欠いた、フィクションにフィクションを重ねたものと評せざるを得ない。こんな妙な知識を植え付けられた戦後の日本人が、自らの「国家」について、明確に論じることができないのは、さもありなん、と言わなければならない。

これから、法律学を究め、この国を背負って立たんとする人たちには、ぜひ、「国際法」を学んでいただきたい。国際司法裁判所(ICJ)所長訪日のニュースに、そんなことを思った。

参考・日本国外務省「ロザリン・ヒギンズ国際司法裁判所所長の外務大臣表敬について」
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/h19/4/1173069_802.html