アーカイブス「中国へ新幹線輸出は危険」


ブログを更新している暇もあまりないので、今回は、4年前に執筆した「主張」をそのまま転載する。本稿「中国へ新幹線輸出は危険」は、平成15年8月5日付で、われわれのホームページと、提携メールマガジンで配信したものである。先日の日記で紹介した、JR東海葛西敬之会長の論文「新幹線売込み『中国詣で』は国益に反する」(『諸君!』平成16年4月号所収)の半年以上前に、葛西さんと同じ主張をしていたことになる。

以下、再掲。なお、肩書等は、いずれも当時のものである。


中国政府が北京−上海間に計画している高速鉄道をめぐり、日本の「新幹線」方式の採用が有力と報道されている。折しも扇千景国交相が事実上の「売り込み」のために訪中しており、奥田碩日本経団連会長も「ぜひ受注すべき事業」と発言するなど、官民挙げて新幹線の中国輸出に期待が高まっている。

だが私たちは、鉄道の「専門家」という立場からも、またわが国の国益という観点からも、中国への新幹線輸出に断固反対する。私たちとて、中国の大地を日本版の新幹線電車が疾走する様子を想像すると、胸が熱くなる。かつてわが国が運営した南満州鉄道あじあ号」の姿とオーバーラップさせる向きもあろう。けれども、そうした「ロマン」に酔っているうちに、わが国益を損ねる結果となっては、元も子もないのである。

日本の新幹線は、きわめてよくできたシステムである。昭和39年の開業以来、基本的な考え方は変わっていないが、後発の欧州陣以上の安全性・安定性を誇っている。台湾では、日本の実績が評価され、新幹線方式が選ばれた。平成17年には、台北−高雄間に日本から輸出された700系新幹線電車(注、型式名は日本のもの)が走り出す。

けれども注意したいのは、運行システムから軌道・路盤・車両に至るまで、日本が包括受注した台湾と違い、中国はすでに「技術移転が目的」(中国鉄道省幹部)と明言しているのである。つまり、台湾は日本から320両の全車両を輸入して開業に備えるが、中国の場合は、最初の数編成のみ日本から輸入し、車両の量産は中国で行なう方針を明らかにしているのだ。

政・財界のお偉方は、こうした事情を理解して、それでも初期投資分に期待して売り込もうとしているのか、定かではないが、すでに車両メーカ側からは技術流出に対して懸念の声が上がっている。すなわち、中国の車両メーカが日本の新幹線電車に匹敵する完成度の車両を製作できるようになれば、世界の鉄道車両市場で日本企業が決定的な痛手を受けることは必至だからである。

さらに、中国への新幹線輸出は、わが国の鉄道旅客輸送の大動脈たる新幹線システムの「中枢」を中国に売り渡すに等しいことに、気づかねばならない。冷戦時代に建設が進められた青函トンネルでは、各国の鉄道関係者の見学を受け入れたが、旧ソ連による見学だけは決して認めなかった。こうした「安全保障」上の視点が、あまりに無視されすぎているのではないか。

中国は、国連人権委員会EUが提案した「北朝鮮による日本人拉致非難決議」に、ロシア・マレーシア・ヴェトナムなどとともに「反対」票を投じた(すなわち、日本より北朝鮮側についた)国である。そうした国に、日本の新幹線を輸出することが真にわが国益にかなうといえようか。その答えは、自ずと明らかであろう。