アフリカへの旅・準備編

試験勉強中、「試験が終わったら、あれをしよう」と思っていたことが、いろいろある。挙げてみると、きりがない。

衰えてゆく一方だった語学(英語・ドイツ語・ロシア語)、ざっと目を通しただけのここ数か月の鉄道誌の熟読、5月に入って一度も構っていない愛車(クロスバイク)の相手、のんびりローカル線の旅、祖父母のお墓参り、「合格後」を見据えた就職活動、その他…。

さて、6月5日から、アフリカ4ヵ国(ジンバブエザンビアナミビア南アフリカ)歴訪に出かける。アフリカ大陸は初めてで、今回の旅から無事帰還すれば、「世界5大陸」(アジア・ヨーロッパ・北アメリカ・南アメリカ・アフリカ)+オーストラリア亜大陸全制覇を達成する。

記念すべき旅なのだが、喜んでばかりもいられない。訪問先・ジンバブエの情勢が、きな臭いのだ。

カナダのナイアガラ、ブラジルのイグアスと並ぶ、世界三大瀑布のひとつ「ヴィクトリアの滝」を擁し、「バックパッカー天国」ともいわれたこの国は、2000年以降、ジンバブエ版「農地改革」(白人大地主が所有する農地を強制収用し、黒人労働者に分配)を機に、迷走を始める。農場経営のノウハウもない黒人に、いきなり土地を与えても、うまくゆくはずがないのである。しかも、収用過程が、退役軍人らによる暴力的占拠を、政府が「黙認」するかたちで始まったので、各地で衝突が起きた。黒人群衆に殺害・強姦される白人農場主らも出た。

この騒乱で、かつては「アフリカの穀物庫」と称された農業生産は、激減した。収用に抵抗した地主を逮捕するなど、強権的なムガベ政権に対し、英国連邦(The Commonwealth) は、2002年、ジンバブエの連邦評議会参加資格停止処分を決定するが、ジンバブエ側は「逆切れ」し、翌年には英国連邦を脱退する。合衆国のブッシュ大統領は、ジンバブエを、北朝鮮・イランと並ぶ「圧政の拠点」として、名指しで非難した。だが、ムガベ政権は、欧米による経済制裁をものともせず、2005年には、「農地収用をめぐる紛争に、裁判所は管轄権をもたない」とする、恐るべき憲法改正を強行、この国の混迷は、いよいよ深まっている。今年3月には、ひと月のインフレ率が200%(年間では2000%超)という、世界最悪の「ハイパー・インフレ」を記録した。

経済の破綻で、都市部の治安は悪化しているという。滝の見物だけが目的なら、観光地のヴィクトリアフォールズに飛行機で直行するという手もある。だが、それでは、この国の真の姿は、見えてこない。急激なインフレに、紙幣の印刷が追いつかず、今や、流通しているのは、現金(cash)でなく、中央銀行発行の「小切手」(cheque)、という、この国の。

そこで、次のような計画を立てた。

 <凡例>
KIX=大阪(関西)、TPE=台北、HKG=香港、JNB=ヨハネスブルグ(南ア)、HRE=ハラレ(ジンバブエの首都)、CPT=ケープタウン(南ア)
・ / は飛行機での移動、→は地上移動、(+1)は翌日着を示す

6/5 KIX/TPE/HKG/JNB(+1)
6/6 JNB/HRE ハラレ泊
6/7 終日、ハラレ
6/8 ハラレ→ブラワヨ(夜行列車) 車中泊
6/9 終日、ブラワヨ(ジンバブエ
6/10 ブラワヨ→ヴィクトリアフォールズ(夜行列車) 車中泊
6/11〜12 終日、ヴィクトリアフォールズ
6/13 ヴィクトリアフォールズ→ウィントフック(長距離バス) 車中泊
6/14 終日、ウィントフックナミビア
6/15 ウィントフックケープタウン(長距離バス) 車中泊
6/16〜18 終日、ケープタウン 喜望峰観光など
6/19 CPT/JNB/HKG(+1) 以降、未定

アフリカまで、ヨーロッパ経由で飛ぶか、香港経由にするか、と以前書いたが、予算の制約と、帰路に「台湾新幹線」にも立ち寄れる、という理由で、後者に決めた。台北ヨハネスブルグ間の往復は、JALマイレージ特典(キャセイ・パシフィック航空利用)なので、「無料」。日本から台北までと、アフリカ内の2区間は、有償である。ホテル代も含めた総予算は、20万円で収まりそうだ。

ところで、上記の旅程では、ザンビアが入っていないではないか、と思われたら、鋭い。

ヴィクトリアフォールズは、ジンバブエザンビアの国境の町でもあり、ウィントフックゆきのバスが出発するのが、国境を越えたザンビア側なのである。こうして、アフリカ4ヵ国を回れることとなった。

上記のうち、ジンバブエ国内の夜行列車を除き、航空券、滞在中の全てのホテル、長距離バスの予約は、試験前に、ネットで済ませておいた。ホテルの手配は、アフリカ専門の旅行会社に頼もうかとも思ったが、手数料が1都市あたり5000円かかる、というので、自前で手配することにした。手数料を払って、中途半端なホテルを紹介してもらうくらいなら、自分で予約できる高級ホテルに泊まるほうが、お金の使い方として、有効である。

そうはいっても、予算は青天井ではない。第一級の観光地・ヴィクトリアフォールズの手頃なホテル探しは、難航した。検索した結果、旅行会社に頼むと1泊5万円(!)を下らない、五つ星のThe Victoria Falls Hotelが、オーストラリアのホテル予約サイトに、1泊170USドル(約2万円)の特別レートで出ているのを発見、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、それに決めた。

ガイドブックによれば、「一度は泊まってみたい憧れのホテル」で、「レストランでは男性はジャケット・タイ必要」だそうだ。私ごときの若造が、それも一人で、気安く泊まるようなホテルではなさそうである。が、えい、ままよ。日本人として、恥ずかしくない振る舞いをしたい。

そんな高級ホテルに泊まって、ジンバブエの実情がわかるか、と思われるかもしれない。が、日本の外務省が「車内盗難が多発しているので注意」としている、夜行列車にも乗るので、バランスはとれているだろう。南アでも鉄道に乗りたいところだが、真剣に危ないそうなので、現地の状況を見て判断したい。ちなみに、英国の鉄道ファンサイト(http://www.seat61.com/index.html)によれば、ヨハネスブルグ近郊の列車に乗ることは"crazy"以外の何物でもなく、ケープタウン周辺は、昼間なら大丈夫かも、というレベルのようだ。

世界中を、安心して、鉄道で旅ができる日は、来るのだろうか―。