アーカイブス「鉄道警察を全国一元に」

少し前になるが、JR北陸線の特急「サンダーバード」の車内で、女性のお客様が、乗り合わせた男によってトイレに連れ込まれ、強姦されるという、許しがたい事件が起きた。犯人の男は、湖西線の普通電車内などでも、同様の犯行を繰り返していた。安全であるべき列車内で、想像もしない災禍に巻き込まれた被害者の屈辱感はいかばかりかと思うと、犯人に対し、強い怒りを覚える。

サンダーバード」の事件をめぐっては、同じ車両に乗り合わせたお客様の何人かは、異状に気づいたものの、犯人を制止したり、車掌に通報したりする者は一人もいなかった、という事実が、センセーショナルに報道された。私は、現場の状況を正確に知っているわけではないから、この「集団的無関心」については、ここでは触れない。

さて、列車内・駅構内での犯罪に対処するため、国鉄時代は、「鉄道公安官」と呼ばれる専門の国鉄職員が、主要駅の「鉄道公安室」に配置されていた。刑事訴訟法180条にいわゆる「特別司法警察職員」の一種で、同条の規定に「森林、鉄道…」とあるのは、その名残である。

国鉄分割民営化とともに、国鉄の公安本部を継承して発足した「鉄道警察隊」だが、その体制は、大きく変わった。本稿は、今から7年前の平成12年に、鉄道警察隊の再編案を示した、一試案である。当時、私は高校3年生だったが、なかなかよく書けているので(自画自賛である)、以下、再掲する。


国鉄の分割民営化以降、駅構内・列車内の治安機関は大きく変わった。国鉄時代は、主要駅に鉄道公安官が配置され、国鉄駅構内や列車内の秩序を保ってきた。鉄道公安官は国鉄職員ではあるが、「鉄道公安職員の職務に関する法律」により司法警察権を行使できたほか、拳銃の携行も認められていた。終電後の駅構内からの「追い出し」や、喧嘩の仲裁などには、駅員と鉄道公安官が、協力してあたっていた。

最近、JR各社の駅社員への暴行事件が多発している。とくに、帰宅ラッシュ時間帯に運転見合わせなどが重なると「危険」で、JR東日本高尾駅などでは、機動隊の出動にもおよんでいる。JR東日本は、駅社員への暴力行為等は、法的手段に訴えてゆく方針という。いまの「サービス業」駅員は原則無抵抗ゆえ、対抗のしようがないのだ。

こうした事例を見聞きするたび、鉄道警察隊はどうしたのだと思う。国鉄分割民営化に際し、鉄道公安官は、警視庁・各道府県警察所属の鉄道警察隊に再編されたのである。駅構内の旧鉄道公安室の多くは、鉄道警察隊の分駐所や交番となったが、利潤追求のJRの意向か、駅舎改築などの際に規模が縮小されてしまったところが多い。また、地域の交番を兼ねるところも多いが、結果として駅構内の巡回や列車警乗が手薄になっている。ひどい例では、鉄道警察隊の看板だけで、まったく人の気配のない分駐所もある。

こんな話も聞く。東海道新幹線の車内で盗難に遭い、東京駅の分駐所へ被害届を出すと、警察の管轄の問題でややこしい話になったという。鉄道は、都府県境など関係なく延びているが、警察は違う。鉄道警察隊には、本来は管轄外の事件の相談も多かろう。北海道だけは、全道一元の北海道警の管轄だから、対応も比較的容易だろうが、道警以外の自治体警察が、鉄道警察隊に力が入らないのも、うなずける。

そこで、「鉄道警察本部」など全国一元の統括部署を警察庁内に設置し、全国の鉄道警察隊自治体警察から切り離し、この組織の所属としてはどうか。実際、皇室関係の警護にあたる皇宮警察は、このようなかたちをとっている。

かつては駅構内の事件を「未然防止」する態勢だったのが、事件の「後処理」というかたちとなり、今や乗客どうしの傷害致死事件にまで発展している。総合サービス企業をうたうJR各社が、躍起になって進める、駅の多角的商業ゾーン化も大いに結構だが、安心して利用できる鉄道は、なにより大切な、かつ基本的な「サービス」である。
(平成12年7月発表)