理論と実務のあいだ

JR西日本お客様センターの事前研修、私にとっては「なにを今さら」の内容なのだが、お給料もいただけるので、覗いてきた。

………。ロースクールの授業で、「理論無視・結論重視型」の返答をした学生に対して、教授が烈火のごとく怒るのは、こういうことなのかな、と思ったりもした。

「教官」は若い女性なのだが、そもそも教えるのが上手くない(テキスト棒読み)。百歩譲って、それには目をつぶるとしても、営業制度の趣旨をきちんと理解しておらず、知識が上滑りしているのである。

300条以上におよぶ、JRグループの「旅客営業規則」(運送約款)の一つひとつの条文の背後には、れっきとした「制度趣旨」が存在する。例えば、新幹線と在来線の特急列車とを乗り継ぐと、在来線の特急料金が半額になる、というのは、ご存知の方も多かろうが、これ一つとっても、割引が適用される理由、あるいは、されない理由がある。

ところが、この点を踏まえずに、「この場合は乗継割引が適用されます」「この場合は割引になりません」では、たとえその取扱いが正しくとも、制度を理解したことにはならない。

もちろん、お客様センターの社員としては、「実務」に耐えられればそれでよいのであって、「理論的正当性」や「制度趣旨」なんぞを追求するのは、法学徒の悪い癖なのかもしれない。しかし、暗記だけでは、時間が経てば忘れるし、新しく制度を「設計」する側に回ることは、不可能であろう。

いらいらして、「私が代わりに説明します」と、何度も立ち上がりかけたが、必死でこらえた。

授業後、教官に、
「stationmasterさん、今日の範囲は、全部ご存知でしたか?初めて聞く話とか、ありました?」
と、聞かれた。

私は、それには直接答えず、
「営業制度を一から勉強するのは、難しいですね」
と、お茶を濁した。

「旅客営業規則」の体系的な魅力を、ぜひ味わってほしい、と願うのは、マニアの戯言なのであろうか。

参考 JR東日本「旅客営業規則」
(主要部分は、旅客6社共通)
http://www.jreast.co.jp/ryokaku/index.html