安倍さんへ―辞める必要はないけれど

第21回参議院議員通常選挙は、自民党の歴史的大敗となった。民主党参議院の第一党に躍り出たことで、政府・与党にとって、今後の国会運営は相当困難なものとなろう。

勢いづいた民主党は、「安倍政権に対する民意は明らか」として、解散総選挙に追い込みたい考えだ。しかし、ちょっと待ってほしい。参院選の結果を受けて、いちいち衆議院を解散するならば、それは形を変えた「参議院不要論」に他ならない。憲法上、内閣総理大臣の指名は、衆議院の意思が優先されるのであり(憲法67条2項)、首班指名衆議院の専権事項に改めるべし、との憲法政策論も有力なところである(憲法改正が必要)。

任期が6年と長い点に加え、解散がなく、半数改選の参議院は、衆議院に比べ、保守的な役割を果たすことが期待されている。ここでいう「保守的」とは、政治思想的な意味ではなく、選挙という一時点における民意の「暴走」を緩和する、という意味である。したがって、今回の結果を「安倍内閣不信任決議」と同視するかのような野党の主張は、二院制についての基礎的な理解を欠いた謬論である。

そもそも、今回の選挙で「争点」とされた、「年金記録」「政治とカネ」などの問題は、たしかに重大ではあるが、与野党で論戦を繰り広げるようなものではない。もちろん、いわゆる「消えた年金」問題についていえば、自民党には、政権政党としての責任があることは否定しないが、行政の監視は国会の権能なのであり、野党にも同様に責任がある。なにも、安倍総理が、年金をめちゃくちゃにしたわけでもなく、総理自身、改革は断行する、と明言していたのである。

有権者が、自らの生活に直結する問題に敏感に反応し、「与党にお灸を据える」投票行動に出ることを、一概に否定するつもりはない。しかし、このような―私にいわせれば些細な―問題に拘泥するあまり、外交・安全保障などの重要政策や、あるべきこの国のかたちを正面から論じることができなかったのは、誠に残念であった。

その意味では、安倍総理が続投するのは、けだし当然のことなのだけれど、一つ注文がある。それは、閣僚人事に「情」は不要、ということだ。内閣発足直後から、「日本政府はイラク戦争を支持したわけではない」などと能天気な発言を繰り返していた久間前防衛相(当時は防衛庁長官)を、その時点で解任していれば、「原爆投下はしょうがない」と素っ頓狂なことを言い出すこともなかった。事務所費問題を追及され、「ナントカ還元水」という名言を残した故・松岡農水相も、あるいは死ななくて済んだかもしれない。その後任の赤城農水相は、人間性にも問題があるようである。国務大臣の任免は、総理の専権事項なのだから(憲法68条)、その職責に耐えない閣僚は、躊躇せずに更迭すればよい。

北朝鮮による日本人拉致・核開発、対テロ戦争地球温暖化対策、日中ガス田問題…。まさに「オール・ジャパン」態勢で立ち向かうべき課題は、山積している。近く予定される内閣改造では、またもや「お友達内閣」と揶揄されるようなことがありませんように。