旅立つ人へ

母親からメールが来た。

急遽思い立って,6日から11日までパリに行くという。「どうしてもオルセー美術館に行きたくなって」だそうだ。1週間前に,JTBに無理を言って予約を入れてもらったらしい。

母親はパリが好きで,ちょうど1年前にも一人で行って,帰国後は目を輝かせて称賛していた。私が,昨年秋の旅先にフランスを選んだのも,そこまで褒められては,いくら天邪鬼な私でも,世界旅行者として一回は見ておかねば,と思ったからであった。

ところで,パリは,けだし魅力的な街ではあったが,最後の旅の割りに,感慨が浅いことに気づく。昨年6月の南部アフリカ鉄道紀行や,一昨年3月のシベリア鉄道全線走破が,思い出すだけでも興奮してくるのと比べると,平板な印象が拭えない。パリを観光するのも楽しかったが,それ以上に,例えば,ミャンマーヤンゴン駅で,行先もわからぬまま,列車に乗り込んだ記憶のほうが,はるかに鮮明である。

思うに,私の体は,鉄道で旅をしないと,スイッチが入らないようだ。フランスでも,4日間,鉄道には乗ったが,日本の新幹線に相当する「TGV」という高速鉄道に乗りまくった。味気なさは,それが原因かもしれない。

そうすると,私が羨むべきは,パリの母親ではなく,アメリカ大陸を,サンフランシスコからニューヨークまで,鉄道(アムトラック)だけを乗り継いで横断しようとしている,高校の後輩・T君ということになろう。

ともあれ,お二方には,「私も行きたい!」と思うような,素晴らしい旅になることを祈る。