北の社交場

秋田22時31分発の大阪ゆき寝台特急日本海」で,関西に帰省する。

秋田に赴任してから,列車で帰るのは今回が初めてだが,この「日本海」というブルートレインは,私にとって,思い出の列車のひとつである。

平成14年の夏,JALの特典航空券で中国を旅した後,タダで日本国内線を1区間付けられるので,北海道に飛び,「北海道フリーきっぷ」(当時)で,道内を1週間周遊した。当時は,道内主要都市間に夜行列車があり,宿は,ほとんど取らなかった。

帰路,十和田湖に立ち寄った後,秋田から,「日本海4号」に乗り込んだ。平成14年9月7日の夜だった。

指定された向かいの寝台には,若い女性が,1人で乗っていた。寝台車では,乗り合わせた人と挨拶するのがマナーである。「こんばんは」と声をかけた。

その後,きっかけが何だったのか,よく覚えていないが,お互いに打ち解け,私たちは,少し話をした。寝台車の夜は早い。周りのお客さまの迷惑にならないよう,小声で話をした。彼女は,私より3つ年上だった。

私は,「明日・9月8日が,20歳の誕生日なんです」と,言った。すると,彼女は,傍らから,お土産に買ったらしい日本酒の小瓶を取り出して,言った。

「じゃあ,12時になったら,乾杯しましょう」

私は,デッキ備え付けの「冷水機」から,紙コップを取ってきた。

そして迎えた,平成14年9月8日午前0時。私が,注がれたお酒を飲み干すと,彼女が拍手で祝ってくれた。

翌朝,私たちは,大阪駅で別れた。その後,彼女とは,二度と会っていない。