遠慮を忘れた日本人

「バス運転手 障害者に暴言放つ」

長崎県佐世保市などで運行する西肥(さいひ)バスの男性運転手(46)が9日、停留所への止め方を注意した市内に住む障害者の男性(49)に対し「この人は文句を言うので有名で大変な人」などと、他の乗客がいる車内で言い放っていたことが分かった。運営する西肥自動車佐世保市)は「不適切な発言があった」と謝罪し、運転手には同日、厳重注意した。

 男性は脳出血の後遺症で、歩行にはつえが離せない。男性は通勤のため、同市大塔町の停留所から乗車したが、バスの乗車口が歩道のガードパイプにかかる状態で停車したため、下車の際、運転手に「乗りにくい。もう何十回も苦情を言っている」などと抗議した。運転手は「しっかり止めたはずだ」と主張し、暴言を吐いたという。この時、乗客約10人がいた。

 バス停は、乗降用に歩道のガードパイプが約1.8メートルにわたって空いているが、運転手によってはバスの乗降口と大きくずれて停車することもある。男性は歩道とバスの間を横向きの体勢で歩かなければならず、体に負担がかかるという。

 男性はこれまで、複数の運転手に注意し、営業所にも改善を求めてきた。会社側も、10月に営業所の所長らが男性宅に出向き、運転手への指導の徹底を約束していた。同社は「運転手は反省しているが、プロとして許されない行為で大変申し訳ない」と話している。
毎日新聞WEB)

このニュース,むしろバス運転手のほうに同情してしまうのは,私だけだろうか。

まず,誤解を招くニュースタイトルからして,良くない。あたかも運転手が差別的発言をしたかのようだが,記事を読むと,そうではない。ただ,他の客がいる前で,問題の旅客に対し,やや不適切な言葉遣いで言い返した,というだけのことである。

記事を分析してみると,問題の旅客は,停留所へのバスの止め方が気に入らず,バス会社に対して抗議を繰り返していたという。バス営業所の所長が,当該旅客の自宅まで出向いて謝罪しているほどだから,よほどしつこかったのだろう。

また,今回の一件が「ニュース」になった経緯を考えてみたい。これは私の推測になるが,このような事象があったことをバス会社側が報道発表するとは考えがたいので(今回の一件は,国に対して報告義務のある運転事故などではない),当該旅客が,なんらかの方法で,マスコミに訴えたと思われる。

はっきりいって,私は,当該旅客の行動に,違和感を覚える。

もちろん,バス運転手は,乗客が乗り降りしやすいようにバスを止めるべきであり,当該旅客の気持ちも理解できなくはない。

しかし,記事に表れた当該旅客の言動からは,「要求して当然」といった態度がうかがわれるだけで,遠慮のかけらも見受けられない。

「お客様は神様」という言葉がある。これは,サービス業の本質だと思うが,しかし,客の側が,この言葉を振りかざすのは,正しくない。

対価(運賃)を支払っているのだから,何を要求しても通ると思っていないか。

旅客の側が「運転手さん,すみませんけど…」という態度であれば,運転手の口から「この人は抗議するので有名」などという言葉は,通常,出ないはずである。

西洋人が感嘆した日本人の慎み深さは,過去のものとなってしまったのだろうか。