不幸中の幸い

日本時間の今朝早く,ニューヨーク・ラガーディア空港を離陸直後のUSエアウェイズ機(A320型機)が,バードストライク(エンジンが鳥を吸い込む事象)に遭遇し,エンジンが全2基とも停止するという緊急事態に陥った。同機は,機長の機転でハドソン・リバーに不時着水し,乗客・乗員は全員救助された。

航空機のパイロットは,巡航(水平飛行)中に全エンジンが停止した状態からの緊急着陸の訓練は受けている。しかし,離陸直後で高度が低い上に,対地速度も遅く,機体の状態が不安定な,いわゆる「クリティカル・イレブン」(離陸後3分間・着陸前8分間)からの緊急着陸(着水)成功は,聞いたことがない。決して,全てのパイロットがなせる技ではなく,奇跡の生還であった。

客席備え付けの救命胴衣が役立った航空事故というのも,近年あまり例がない。ところで,旅客機の救命胴衣の正しい使い方はお分かりだろうか。

もし,救命胴衣を着用したらすぐに膨らませると思っておられたら,それは間違いである。

非常口で脱出する時に初めて膨らませるのが正しい。これは,座席のところで膨らませてしまうと,狭い通路などで支障し,迅速な脱出の妨げになるからである。

機内で流される安全ビデオでも,私の記憶が正しければ,「非常口で,引き手を強く引いて膨らませてください」(JALの場合)と案内されてはいるが,あまり理解されていないのではないかと思っている(ちなみに,アメリカン航空などでは,「機内では決して膨らませないでください」と,強い調子で表現している)。

話は変わるが,昨日,JR北海道管内で,列車の追突に至りかねないインシデントが発生した。

昨日(15日)14時36分ころ,函館本線滝川〜江部乙間の上り線で,旭川岩見沢行き上り普通2192M列車(711系電車3両)が,第1閉塞信号機の注意現示(黄信号)に従い,同閉塞区間に進入したところ,同閉塞区間内前方に貨物列車が停車しているのを認め,非常制動をかけた。普通列車は,貨物列車後部から約250メートル手前で停止した。

JR北海道の発表によると,原因は,第1閉塞信号機内部の電気配線のミスで,停止現示(赤信号)を出すべきところ,注意現示が出るようになっていたという。

開いた口が塞がらない,間抜けな,そして深刻なミスである。しかも,信じがたいことに,問題の信号機は,平成19年1月に交換されたもので,以来2年もの間,社員の誰一人として異常に気付いていなかったことになる。

今回,追突に至らなかったのは,幸運な偶然にすぎない。もし,見通しの悪い夜間であったら,貨物列車に気付くのが遅れ,ブレーキをかけても間に合わなかったかもしれない。

さらにいえば,注意現示が出る配線ミスだったことも,幸いした。鉄道信号の注意現示は,「進め」の一種だが(この点,もっぱら交通整理目的の道路信号とは,概念が全く異なる),時速45キロ以下での進行が定められていて,これを上回る速度で通過すると,ATS(自動列車停止装置)が作動する。

もし,進行現示(青信号)が出るような配線ミスであったら,どうなっていたろう。第1閉塞信号機から貨物列車の停止位置までの距離は,約400メートルしかなかった。普通列車が時速45キロ以下に減速することなく進行していれば,非常ブレーキをかけても止まりきれなかった可能性が高い。

結果的に追突は免れたのだから,そんなに騒がなくても,と思われるかもしれない。

しかし,本件の背景には,JR北海道の技術力の低下があるように思われてならない。

平成19年以降,JR北海道では,インシデントが続発している。同年には,室蘭本線苫小牧駅で駅構内入換中の列車が脱線したほか,踏切無遮断状態で列車が通過する事象が9件も発生している。また,インシデントではないが,同年12月,札幌駅周辺で防護無線(付近の列車を緊急に停止させる無線信号)が発報した時は,原因究明・運転再開まで6時間以上要し,札幌都市圏輸送が大混乱した。

JR北海道は,レール・道路どちらも走れるDMVデュアル・モード・ビークル)の実用化試験などにも取り組んでいるが,輸送の根幹にかかわる基礎技術の維持は,DMVなどよりよほど重要である。JR北海道の猛省を望みたい。