沈みゆく太陽

まだ決まっていない段階で書くのもどうかと思うが,JALの行く末を案じると,書かずにはいられない。

経営再建中のJALが,アメリカのデルタ航空,フランス・オランダのエールフランスKLMなど,外資系航空会社への第三者割当増資を検討している,と一斉に報じられた。

これには驚いた。なぜなら,デルタ航空エールフランスKLMも,「スカイチーム」航空連合のメンバーであり,JALが加盟する航空連合「ワンワールド」とはライバル関係にあるからだ(もっとも,1990年代前半までは,JALデルタ航空と個別提携していた)。

ワンワールド」は,航空会社の規模でいえば,JALアメリカン航空ブリティッシュ・エアウェイズの3社が3巨頭だが,3社共に経営は思わしくなく,経営再建を進めている。「ワンワールド」メンバーにすれば,JALを救いたくても救えない状況なのだ。

JALは,2007年4月1日に「ワンワールド」に加盟したばかりで,仮にすぐに脱退するとなると,百億円規模の違約金が発生する可能性もある。JAL経営陣には,慎重な上にも慎重な判断を望みたい。

それにしても,今回の外資提携には,10年前の「悲劇」を思い出さずにはいられない。

平成11年,JRグループの通信子会社だった日本テレコムは,アメリカのAT&T,英国のブリティッシュ・テレコム(BT)と資本提携し,「日米英の戦略的パートナーシップ」を高らかにうたい上げた。増資の狙いが,携帯電話事業「J-フォン」のネットワーク増強にあることは明らかだった。この時,外資1社に対する増資ではなく,2社に割り当てたのは,特定の外資の影響力が強まることを避けたいという,筆頭株主JR東日本の意向だったといわれている。

ところが,翌年,日米英の3資本でバランスを取るというJR東日本日本テレコムの思惑は,早くも瓦解する。英国BTが,日本テレコム株式を英国ボーダフォンに売却すると,アメリAT&Tも,持株をボーダフォンに売却したのだ。

さらに,日本テレコムの経営をめぐっては,JRグループが必ずしも一枚岩ではなかったことも決定打となった。JR東日本と対立することの多かったJR東海JR西日本は,平成12年秋,ボーダフォンが仕掛けた日本テレコム株式のTOB(株式公開買付)に応募し,持株を手放した。

日本テレコムの経営権を握ったボーダフォンは,成長が期待される携帯電話「J-フォン」と固定電話の分離を図り,平成14年,固定電話事業を子会社に移管し,平成15年には携帯電話の「J-フォン」だけを「ボーダフォン」にしてしまった。

平成16年,固定電話子会社がソフトバンクに売却されて「ソフトバンクテレコム」となり,ボーダフォンが思い描いた「携帯電話事業だけを手中に収める」構図が実現したかに見えた。ところが,ボーダフォンの経営戦略の失敗が響いて業績は低迷し,平成18年,ボーダフォンは,携帯電話会社もソフトバンクに売却して,日本から撤退してしまった。

国鉄の通信部門を母体とし,高度な技術力を誇った日本テレコムは,外資の荒波にもまれる過程で,成長事業を奪われ,事実上崩壊した。全ての経営判断の誤りは,安易な外資導入にあった。

JALが同じ道を歩まないという保証はどこにもない。海千山千のアングロ・サクソンに,日本流の「仁義」は通用しない。JALコーポレートロゴ「Arc of the Sun」が沈みかけている。