モロッコへの道

今年も、夏休みを2週間取れることになった。

上司が、夏休み時期を相互に調整するペアを指定してくれ、「夏休みは連続2週間、必ず取ること」と厳命してくれるのだから、これほどありがたい話はない。普段は、上司の命に背くこともある私だが、この言い付けには、全面的に従った。

さて、どこへ行くか。

JALのマイルが10万マイル以上貯まっているので、エコノミークラスなら、世界中どこでも行ける。8万マイル使って、ブラジルのサンパウロへ飛び、そこを拠点に南米を周遊してこようかと思ったが、今年9月限りでの運休・地点撤退が決まっているサンパウロ線は、もはや空席がなかった。

普通のエコノミークラスでの欧米往復は、しんどい。そこで、プレミアムエコノミークラスの空席を検索すると、7月末のパリ線に空きがあることが分かり、とりあえず予約を入れた。

フランスへは、3年前の11月にも訪れ、パリ→ボルドーマルセイユ→リヨン→ジュネーブ(スイス)→パリと鉄道で一周したし、パリ市内の主な美術館や教会も、だいたい見て回った。

どこへ足を延ばそうかと考えるうち、モロッコが頭をよぎった。

ロッコに何があるのか、私は、知らなかった。

たまたま、そのころ、ある被疑者との雑談で、映画「カサブランカ」の話になったことと、また、私の好きな映画「あの頃、ペニー・レインと」のラストシーンで、ヒロインがモロッコ行きの飛行機に乗り込むシーンがあったことから、モロッコに行ってみようと思ったのである。

ロッコは、戦前、フランスの保護領だった関係で、エールフランスの便が豊富にある。このくらいは、前提知識として知っている。

私は、エールフランスのホームページで、パリからモロッコ往復(往路ラバト着、復路カサブランカ発)の航空券を予約した。ヨーロッパ周辺域内は、いわゆるローコストキャリア(格安航空会社)が発達しており、エールフランスも往復で約3万円という格安運賃を設定して対抗している。航空会社は消耗戦で大変だろうが、旅行者にとっては、ありがたい話である。

さて、モロッコに行くのは決まったが、モロッコは、2週間丸々いるようなところではないらしい。もっとも、私の旅の主眼は、その国の鉄道に乗ることだから、そういうことになるのであって、モロッコ自体の観光資源が少ないということではないのだが、とにかく、1週間もあれば十分なようである。

ロッコから船でジブラルタル海峡を渡り、1週間かけて、陸路(と、海路)でのんびりパリに戻ることも考えた。そのほうが、映画「カサブランカ」のようでもあり、雰囲気が高まる(気がする)。

ところが、その場合、パリからモロッコへの航空券を片道で買うことになり、5万円以上かかる。片道だと、割引がないからである。往復で買っておいて、復路券片を捨ててしまうという手もないではないが、鉄道でも航空でも、捨てることを前提にチケットを買い、座席まで予約するのは、違法ではないにしても、フェアな買い方ではないと思っている。

そこで、飛行機でさっさとパリに帰ってきて、残り1週間は、去年に続いて、ヨーロッパの鉄道に乗ることにした。

パリから、どこへ行くかと考えて、パリ→ブリュッセルアムステルダム→フランクフルト→ストラスブール→パリと、時計回りに回ってくることにした。

ベルギーにはまだ行ったことがないし、せっかくヨーロッパにいるのだから、大好きなドイツ語を、たっぷり見て、聞いて、話したい。

ぼんやりそう考えていると、自然と周遊ルートができ上がった。「ユーレイルパス」が1枚と、「トーマスクック時刻表」が1冊あれば、ヨーロッパは、鉄道でどこへでも行ける。

というわけで、7月21日から8月3日まで、フランス・モロッコ・ベルギー・ルクセンブルク・オランダ・ドイツ・スイスを歴訪することにした。

言葉が分かると、旅の楽しさは格段に上がる。私は、フランス語のテキストを買い込んできた。