さあ、日本へ出かけましょう

stationmaster2006-02-21


人を好きになるのに理由がないように、気がつくと、駅を好きになっていることがある。

北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線(旧JR池北線)の上利別(かみとしべつ)駅も、そんな駅の一つだ。初めての「出会い」は、平成3年頃、買ってもらった鉄道の本に、印象的な写真が載っていて、「一目惚れ」した。うずたかく積まれた丸太をバックに、駅名標が立っていた。「貯木場のある駅」とタイトルが付いていたように思う。小学生だった私は、不思議なその構図と、「かみとしべつ」という響きに魅せられた。

平成10年、初めて池北線に乗る機会があったが、この時は全線を乗り通しただけで、途中下車はしなかった。平成14年・15年と再び池北線に乗り、いくつかの駅に降り立ったが、上利別駅訪問がかなったのは、平成16年の2月だった。

あの時、私は、心が洗われるのを感じた。昭和初期そのままの木造駅舎、昭和40年代に紛れ込んだかのような駅前の風景。昔ながらの郵便局が、栄光の「〒」マークを堂々と掲げている。上利別は、私にとって、桃源郷のように思われた。

その上利別駅も、今年4月の池北線廃止で姿を消す。私は、夕方の列車で、再び上利別駅に降り立った。

上利別―。愛してやまぬこの地・この駅とも、きょうで今生の別れ。茜色に染まりゆく空を眺めて過ごした2時間は、何物にも代えがたい、貴重な時間だった。

今夜は、池北線陸別駅に併設の宿に泊まる。陸別駅では、明日の始発に備えて、気動車1両が夜間停泊するが、冬期はエンジン凍結を防ぐため、アイドリングしたまま夜を明かす。一見無駄なようだが、ここは、何もかもが凍りつく、日本一寒い町なのだ。