モスクワより、愛を込めて

stationmaster2006-03-16


ウラジオストクから9259キロ・車中6泊7日―。長旅の余韻は、少し遅れてやってきた。

昨日の夕方、モスクワ・ヤロスラブリ駅に着いた。とうとう着いたぞ、という達成感より、ここは本当にモスクワだろうか、という気持ちのほうが大きかった。どこまでも果てしなく続く、タイガの森を一週間眺めていると、それが永遠に続くように思われたからかもしれない。

地下鉄でホテルに移動し、レストランで一人静かに、ウオッカで乾杯した。憧れのシベリア鉄道を乗り通したのだ。世界には、まだまだ乗りたい鉄道があるけれど、もう、乗るべき線路はないように錯覚する。

部屋に戻って、溜まった洗濯物を片付け、イルクーツク以来4日ぶりに風呂に入って、テレビを見ていると、いつしか眠りに落ちた。

一夜明けて今日は、モスクワの街を散策。すでに去年一通り回ったので、お気に入りスポットをめぐる。まずは、モスクワ大学。私の本分は大学院生であるから、アカデミックな雰囲気は落ち着く。もっとも、それは後付けであって、思わず「二度見」してしまうくらい綺麗なロシアの女子大生を観察するのに、これほど効率のよい場所はない。

モスクワ大学に通えるのは、ロシア中から選び抜かれた秀才ばかりである。私がロシアに生まれていたら、ここに通えていたかは多分にあやしい。それはとにかく、学生の歩き方一つとっても、自信と誇りが感じられる。腐りきった京大生に、少し分けてやりたい。

モスクワ大学から少し歩いたところに展望台があり、モスクワ中心部を一望できる。去年ここに来た時は、どんより曇っていた。今日は、天気がいいので気持ちいい。モスクワの街を眺めていると、ようやく、モスクワに着いた実感が湧いてきた。

地下鉄で、ルビャンカ広場に引き返す。スパイ小説の好きな人なら、地名だけでピンとくるかもしれない。ここに、かつてのKGBソ連国家保安局)本部ビルがある。去年は、どれが旧KGBかわからないままだったので、ちゃんと調べてきた。そう言われればそんな気もしてくる建物で、写真を撮るにも緊張する。ここに、若き日のウラジーミル・プーチンロシア連邦大統領も勤務していたのかと思う。

KGB本部から、プーチン大統領が現在勤務するクレムリンまでは、歩いてもすぐである。クレムリンの東側に広がる「赤の広場」(クラスナヤ・プローシャチ)に立つ。モスクワ発のテレビ中継では必ず登場する定番中の定番で、モスクワに来て、ここを訪れない人はいないだろう。多くの観光客が、思い思いに記念撮影している。

さて、モスクワというと、地下鉄(ロシア語でメトロ)抜きでは語れない。核シェルター兼用といわれるのも頷けるくらい深く、日本の2倍のスピード(当社比)はある高速エスカレータで一気に下ってゆくのは、地獄の底に吸い込まれるかのようである。

奈落の底のホームに着くと、急に視界が広がり、豪華な装飾、ドーム型天井から下がったシャンデリア、そして、年代物の吊り掛け式モータに白熱灯の電車が迎えてくれる。

「アスタロージュナ、ドゥベーリ・ザクリバーユッツァ」(ご注意ください、扉が閉まります)から始まるアナウンスを聞いていると、母なる都・モスクワに帰ってきたことを、改めて感じた。