活力ある地域交通をめざして

去る25日に召集された第166通常国会に、国土交通省は、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律案(仮称)」など法案9本を提出すると発表した。

平成12年から相次いで実施された、いわゆる「規制緩和」(鉄道事業法道路運送法などの改正)によって、事業(路線)の廃止に国交相の「認可」が不要となったことを受けて、地方山間部の公共交通(ローカル鉄道・バス)は、ズタズタになりつつある。都市部に住んでいると気づかないが、地域の荒廃は、「この国のかたち」をも危うくする。例えば、手入れされない森林の増加は、治山・治水上大いに問題である。今回の法案をきっかけに、国交省は、「過疎化」と「公共交通の衰退」という悪循環を断ち切る流れを、作ってほしいものである。

さて、JR北海道が4月から試験的営業運転を開始する「DMV」(デュアル・モード・ビークル)について、上記法案では、「新地域旅客運送事業」という新しい類型を設けている。DMVとは、バスを改造して、鉄道線路のレール上も、道路も、走れるようにしたものである。
DMVの概要については、http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2003/040128-2.pdf参照)

そのインパクトが受けて、DMVは、「地域交通再生の切り札」などと言われ、開発したJR北海道には、全国の自治体からの視察が殺到しているようだが、私は、その効用については疑問を持っているし、鉄道運転保安上はむしろマイナスであるとも思っている。まず、このような「幼稚園バス」程度の車両を、わざわざ線路上を走らせる意味があるのか、大いに疑問である。道路渋滞に巻き込まれる心配がない、とも言われるが、そもそもDMV導入が検討されているような地域で、日常的に大渋滞が起こるとは考え難い。

また、DMVは、線路上を走行する場合、鉄道の信号や踏切に反応しないので、他の列車を進入させない「線路閉鎖」手続をとる必要がある。列車本数が限られているローカル線では問題は少ないが、列車ダイヤの制約が大きくなり、かえって鉄道の利便性が低下するおそれがある。線路閉鎖は、本来、列車を止めて行なう必要がある保線作業などの際にとられるもので、これを日常の運転に「濫用」するのも、疑問なしとしない。

さらに、DMVが線路走行中、誤って、線路閉鎖手続がとられていない区間に進入すると、どうなるか。鉄道車両であれば、停止信号を冒進するとATS(自動列車停止装置)の働きで自動的に非常ブレーキがかかるが、信号と関係なしに走り回るDMVには、このような保安装置もない。

このように、DMVにはきわめて問題が多いのだが、今後の営業運転では、定員が少ない、運転士が2人(鉄道・バス)乗務しなければならないのは非効率、といった、営業上の課題も見えてこよう。地域交通の再生に、王道はない。耳目を集めるDMVだけでなく、地道に解決策を探ってゆかねばならない。