この不可思議なるもの

それにしても、北京で開催中の「6か国協議」というのは、不思議なものである。

主題は「北朝鮮の核開発」(最近は「朝鮮半島の非核化」と言われることが多い)なのだが、2003年8月の第1回会議以来、事態はまったく進展を見せず、昨年10月には、北朝鮮は核実験に踏み切った。この時点で、北朝鮮は、対等な当事国ではなくなったとみるのが素直だろう。なぜなら、2005年11月の第5回会議での共同声明で、すでに「検証可能な朝鮮半島の非核化の実現」「北東アジアの持続的平和と安定」が謳われていたからである。

北朝鮮は、わずか1年で国際約束を反故にしたかと思えば、悪びれずに会議に出てきて、数億ドルに上る資金供与・エネルギー支援を要求し、核凍結はそれらと「同時履行」だと言うのだから、もはや常人には理解不能である。合衆国も、北朝鮮を冷たく突き放せばよいのに、マカオ銀行の北朝鮮関連口座にかかる「法執行措置」(しばしば「金融制裁」といわれるが、これは本来のサンクションではなく、マネーロンダリングなどの違法行為に対し、法を適用しているにすぎない)の解除まで、議題に上っている。

こうした状況に、「6か国協議」が、第二次世界大戦前夜の「ミュンヘン会議」とダブって見えて仕方がない。1938年、アドルフ・ヒトラー総統率いるドイツは、チェコスロヴァキアに対し、ズデーテン地方の割譲を要求、欧州に緊張が走った。ところが、戦争を恐れた英仏は、ドイツのミュンヘンヒトラーと会し、ズデーテン併合を認めるという「宥和」政策をとったのである。

その後、欧州が辿った運命は、言うまでもない。当時の英国首相だったネヴィル・チェンバレンは、第二次大戦の勃発(翌1939年、ドイツはポーランドに侵攻)を食い止められず、ミュンヘン会議が、ドイツに軍備増強の時間を与えるだけの結果となったことを悔やみながら、職を去った。

小欄ではかねてから指摘してきたが、「6か国協議」という枠組みじたい、「将軍様」のしたたかな戦略に迎合するものに他ならない。「話せばわかる」との幻想を抱き、烏合の衆のように、出口の見えない協議を続けているこの瞬間にも、北朝鮮の核開発は、着々と進んでいるのである。平壌から、将軍様の高笑いが聞こえてくる。