ジンバブエ情勢―主張せよ,日本外交

ムガベ大統領


3年前,いわゆる「郵政総選挙」での自民党の大勝を,外国メディアは"landslide victory"(地滑り的勝利)と報じた。

今度は,"sweeping victory"(他者一掃の勝利)だそうだ。現地時間の今月27日,国際社会からの批判にも拘らず強行された,ジンバブエの大統領選・決選投票の結果を,BBCが報じている。

決選投票で,現職のムガベ大統領(写真中の額縁の人物)が,自らの勝利を宣言した。

他者一掃―。そりゃそうだ。BBCはこう報じている(邦訳は筆者)。

Robert Mugabe has said he is heading for a "sweeping victory" in Zimbabwe's unopposed run-off presidential poll.
ロバート・ムガベは,対抗馬のいない大統領決選投票において,自身が「他者一掃の勝利」を収めるだろう,と語った。)
He was the only candidate after the opposition boycotted the vote amid reports of violence and intimidation.
(暴力と脅迫の報告が相次ぐ中,野党候補が選挙をボイコットして以来,ムガベが唯一の候補者だった。)
African observers of the poll have called for fresh elections to be held, saying the vote was not free or fair.
(アフリカ選挙監視員は,投票工作のない(fresh)選挙の実施を訴えてきたが,今回の選挙は自由でも公正でもない,と語った。)


対抗馬のいない異常な選挙になった経緯は,こうである。

ジンバブエの大統領選挙は,今年3月末に1回目の投票が行なわれた。2000年ころから独裁を強めるムガベ大統領の失政で,ジンバブエ経済は2007年の年間インフレ率が「10万%」を記録するなど疲弊を極めており,大統領交代を求める世論が高まりつつあった。

実際,3月の選挙では,警察や軍まで動員した与党側の苛烈な選挙干渉にも拘らず,野党のツァンギライ候補も善戦し,ムガベ過半数に届かなかった。ちなみに,野党優位とされる一部の選挙区では,選挙結果が現在に至るまで公表されていない。

ともあれ,決選投票にもつれ込んだのはいいが,危機感を募らせた与党(ムガベ陣営)は,野党弾圧をエスカレートさせた。

野党大統領候補のツァンギライ氏自身,警察に身柄拘束を繰り返されるなどしていたが,最近になって,野党候補が当選していた首都・ハラレ市の市長邸が襲撃され,27歳の妻と幼い子供が誘拐され,子供は解放されたが,妻は遺体で発見されるという事件が発生した。

野党関係者への相次ぐ暴力・脅迫に,ツァンギライ候補は,決選投票からの辞退を表明。候補者はムガベ一人という「出来レース」になったのだった。

ちょうど1年前,ジンバブエを旅していた私は,夜行列車で乗り合わせたハラレ駅の元駅長氏とジンバブエの政治論議をし,経済の立て直しには政権交代しかない,と思った。それだけに,今回の大統領選挙には期待していた。

しかし,彼の国の現実は,甘くはなかった。

今回の選挙に関しては,国連の潘事務総長をはじめ,ブラウン英首相やブッシュ米大統領も懸念を表明しており,EUアメリカは経済制裁を強化する方針だ。昨年まで,ロンドンからハラレに直行便を飛ばしていたブリティッシュ・エアウェイズも,同便の運航をやめている。

ところが,「ムガベ」包囲網を敷く国際社会の結束を乱す国がある。他でもない,中国である。

制裁の一環として経済援助を原則停止している欧米諸国に代わり,中国は,「人権無視」大国どうし,ジンバブエと急速に関係を深めている。EUから乗り入れ禁止措置がとられたジンバブエ航空は,最近,北京便を就航させているほどだ。

先月末,横浜で開催されたアフリカ開発会議には,ジンバブエ政府も代表団を送り込んできていた。首脳クラスではなかったから,福田総理は会談していないようだが,相手国に言うべきことは言い,厳しいことも指摘してこそ,日本のプレゼンスは上がる。

ジンバブエ情勢について日本がなんらコミットしないことは,中国を利するだけだ。来週,「北海道洞爺湖サミット」が開催される。日本は,今こそ,主張する時である。