堂々たる「アジアの盟主」たれ

正式発足した福田改造内閣のテーマは「安心実現内閣」だそうだ。

たしかに,年金や医療などの社会保障政策は,重要な政治課題である。きたるべき総選挙を見据え,内政重視の布陣を敷くのは当然かも知れない。しかし,世界に目を向けたとき,これ以上,福田総理にこの国の舵取り役を任せていては,国益を毀損するばかりである。

冷戦終結以来続く国際社会の「断片化」傾向とともに,ロシア・中国などの新興国による「帝国主義」外交が強まるなかで,日本が平和を維持してゆくうえで根幹となるのは,いうまでもなく日米同盟である。

ところが,昨年9月の福田内閣発足以来,日米同盟にほころびが生じかねない事態が続いてきた。

エネルギー資源を輸入に頼らざるをえない日本にとって,シーレーン防衛は,国益に直結する問題である。にも拘らず,テロ特措法の成立が遅れ,インド洋から海上自衛隊が一時撤収するという事態を招いた。福田総理が,「話せば(野党も)分かる」という見通しの甘さから,当初,衆議院での再議決を躊躇ったためである。

また,安倍内閣当時,集団的自衛権の行使についての憲法解釈を再検討する有識者懇談会が設けられていたが,福田内閣になり,なし崩しになってしまった。自衛隊が,共同で作戦中の米軍への攻撃を手をこまねいて見ているしかないとすれば,日米同盟は,存立の基盤たる「信頼」を失う。

さらに,幹部自衛官によるイージス情報漏洩事件,イージス護衛艦「あたご」の漁船衝突事故は,米軍をして,自衛隊の規律に対する疑念を抱かしめた。防衛省自衛隊改革を進めるうえで,石破前防衛相ほど適任な人材はなかったが,今回,交代させされてしまった。

アメリカは,日本のこうした姿勢に,「日本は頼りにならない」と見限ったのかも知れない。少なくとも,今年半ば以降のアメリカの「変節」,とりわけ北朝鮮のテロ指定国家解除は,「蜜月」と称されたここ数年の日米関係からは,想像すらできない事態であった。つい先日には,アメリカ政府の地名委員会が,わが国固有の領土である竹島の帰属を「韓国領」から「主権未指定」に変更しかけたが,ブッシュ大統領の韓国訪問を控えたホワイトハウスからの圧力により,「韓国領」に戻すというドタバタ劇まで演じてくれた。

アメリカにとっての日米同盟の意義は,日本が,地政学的に重要な位置にあることに加え,自由主義・民主制・法の支配という価値観を共有できるパートナーであり,名実ともに「アジアの盟主」であるところにある。ところが,中韓両国との関係改善を掲げて就任した福田総理は,アメリカを裏切る一方,中韓に媚びへつらい,アジアの盟主たる地位をかなぐり捨ててしまった。

われわれは,なにも,中韓と仲良くするな,と言っているわけではない。けれども,強固な信頼関係のもと,言うべきことは言うのが真の「友達」付き合いなのであり,相手の顔色を窺うあまり言いたいことも言えず,一方で,友達を裏切る行動を続けていれば,国際社会で相手にされなくなるのも,当然の道理である。

折しも,公明党は,テロ特措法の再延長に反対し,臨時国会の召集時期を遅らせるよう主張している。中国までもが,国連安保理決議に基づくアフガンへの地上部隊派遣を検討している今,日本が「テロとの闘い」から手を引くようなことがあれば,北東アジアの力関係がどうなるか,およそまともな為政者であれば,判断に迷うことはないはずだ。福田総理に,残された時間はない。