空幕長論文―何か問題でも?

21世紀になってもこの国は,敗戦国シンドロームの「言論統制」から抜け出せないようだ。

田母神俊雄航空幕僚長が,民間の論文に「わが国が侵略国家だったというのは正にぬれぎぬだ」などと寄稿していたことが明らかになり,中韓両国との関係を慮った政府は,田母神空幕長の更迭を決めた。

朝日新聞』や,いわゆる「進歩的知識人」の方々からすれば,とんでもない発言ということになるのだろう。現に,公明党の山口政調会長は,TBSの番組で,「自分の発言がどう社会に影響するかの判断力がない。こういう人を自衛隊のトップに就ける任免のあり方に問題がある。自衛隊のトップもそれ以下も同じような考え方だとすれば,再教育しないといけない」などと,ご立腹の様子である。もっとも,公明党政調会長に「自衛隊を再教育」するような職務権限があるのか不明だし,ご自身の歴史認識が唯一絶対のものだと思っておられるようなのは,哀れむべきことであるが。

田母神空幕長の論文は,しかし,戦争をことさらに美化したものでも何でもないし,事実関係の誤りも認められない。以下,要旨を引用する。

一、わが国は戦前中国大陸や朝鮮半島を侵略したといわれるが、実は日本軍のこれらの国に対する駐留も、条約に基づいたものだ。日本は19世紀の後半以降、朝鮮半島や中国大陸に軍を進めたが、相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない。

一、わが国は中国で和平を追求したが、その都度、蒋介石に裏切られた。蒋介石コミンテルンに動かされていた。わが国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者だ。

一、1928年の張作霖列車爆破事件も少なくとも日本軍がやったとは断定できなくなった。(文献によれば)コミンテルンの仕業という説が強まっている。

一、満州帝国の人口は成立当初からなぜ爆発的に増えたのか。それは満州が豊かで治安が良かったからだ。侵略といわれるような行為が行われるところに人が集まるわけはない。

一、日本が中国大陸などに侵略したため、日米戦争に突入し敗戦を迎えたといわれるが、これも今では日本を戦争に引きずり込むために、米国によって慎重に仕掛けられたわなであったことが判明している。米国もコミンテルンに動かされていた。ヴェノナファイルという米国の公式文書がある。

一、東京裁判は戦争の責任をすべて日本に押し付けようとしたものだ。そのマインドコントロールはなおも日本人を惑わせている。

一、自衛隊は領域警備もできない。集団的自衛権も行使できない。武器使用の制約が多い。このマインドコントロールから解放されない限り、わが国は自らの力で守る体制がいつになっても完成しない。

一、日本軍の軍紀が厳正だったことは多くの外国人の証言にもある。わが国が侵略国家だったというのは正にぬれぎぬだ。

産経新聞WEBから転載)

いかがであろうか。論文の内容に,論理的におかしいところがあるわけでもなく,明らかに客観的事実に反する記述があるわけでもない。むしろ,「贖罪史観」に目を曇らせ,沖縄戦における「集団自決」の背景など,自己の描くストーリーのために事実をもねじ曲げ,関係者の名誉を毀損して憚らない大江健三郎氏などとは違い,現代史研究の進展を踏まえ,真相を究明する姿勢は,大いに評価すべきである。

われわれは,「歴史」という言葉を深く考えずに使っているが,この言葉には,「生の事実」と「評価」という二つの部分がある。例えば,戦争という同じ「生の事実」であっても,戦勝国と敗戦国とでは,その意味付け(すなわち「評価」)は異なって当然である。

戦後のこの国では,このうち「評価」の部分(それも,わが国ではなく,連合国側のレンズで見た)が偏重され,「日本はアジアを侵略した極悪非道国家」という評価を根拠付けるために,やれ「南京大虐殺」だの「従軍慰安婦」だの,ありもしなかった「事実」が捏造され,それを子供たちに教え込んできた。

そのことのおかしさに,未だに気付けていないこの国は,溶けてなくなる運命をたどるしかないのであろうか。