学割に関する一考察

日本大学のサッカー部員らが、虚偽の住所を申告して京王電鉄の「通学定期乗車券」(以下、通学定期という)を購入し、不正乗車を続けていたことがわかった。

日本大学(小嶋勝衛総長)サッカー部の部員十数人が、虚偽の住所地を申告して京王線の学割定期券を取得し、不正乗車を長期間続けていたことが13日、分かった。正規運賃の3倍を鉄道会社から請求される罰則金は多くて総額3000万円近くに上るという。京王電鉄は日大に詳細な調査を要請、内容次第では刑事告訴も検討する。サッカー部は不正が指摘された後も公式戦に出場するなど活動を続けていた。日大側は「調査中で答えられない」としつつも不正を認めている。

京王電鉄などによると、不正乗車していたのは、関東大学サッカー2部リーグに所属する日大「保健体育審議会サッカー部」(川津博一監督)の男子学生十数人。

東京都内などの学部校舎から京王相模原線若葉台駅近くの同部練習場(東京都稲城市)に通う際、通学ではないため学割が使えないのに、練習場近くに住む部員の住所を悪用するなどして、学割の定期券を取得していた。学割は通常定期運賃の約65%が割り引かれる。部員らは練習場にほぼ毎日通っていたという。

大半の部員が入部直後から不正を続けていたといい、部ぐるみだった疑いが強い。同部OBも同様の手口で不正を行っていたとみられ、京王電鉄の要請を受けた日大側が調査を進めている。

鉄道営業法では、キセルなど不正乗車の場合、鉄道会社は正規運賃に2倍を上乗せした罰則金を請求できると規定。今回の罰則金は多くて総額3000万円近くに上る見込みだ。

今年8月、京王井の頭線・渋谷駅で部員の1人が強引に改札を通り抜けようとしたため、駅員が取り押さえて調べたところ、本人名義の定期券のほかに、他人名義を含む複数の定期券を持っていたことから不正が発覚。

京王電鉄は日大に連絡、調査を要請したが、2カ月たった現在も日大側から調査結果などの返答はなく、部員への処分も行われていないという。同部は不正発覚後も公式戦に参加していた。

日大側は産経新聞の取材に対し、「現在、調査を行っている」として具体的な回答は避けたが、「再発防止などに関して協議している。誠に遺憾であり、今後このようなことがないように努力する」とコメントした。

日大サッカー部の今季の戦績は10月1日現在、6勝5敗(引き分け4)。
産経新聞WEB)

本件について、「虚偽の住所申告はともかく、通学定期を買って何が悪いのか?」と思われる向きもあるかもしれない。割引率の大きい通学定期は、「自宅最寄り駅」と「学校最寄り駅」間に限り、発売することとされている。例えば、JR各社旅客営業規則(運送約款)は、次のように規定している。

第36条 指定学校の学生(第40条第1項第1号に規定する学生を除く。以下この条において同じ。)、生徒、児童又は幼児が、次の各号に定めるところにより乗車船する場合で、その在籍する指定学校の代表者において必要事項を記入して発行した通学証明書を提出したとき又は第 170条第1項第2号に規定する通学定期乗車券購入兼用の証明書を呈示し、かつ、定期乗車券購入申込書に必要事項を記入して提出したときは、1箇月、3箇月又は6箇月有効の通学定期乗車券を発売する。
(1)居住地もより駅と在籍する指定学校(通信による教育を行う学校にあつては、面接授業又は試験会場を含む。)もより駅との相互間を、通学のため乗車船する場合(以下略)

そもそも、鉄道事業者にとって、通学利用だからという理由で運賃を割り引く義務はない。学生にとってはなじみの深い、いわゆる「学割証」について、かつて文部省は、次のような通達を発出したことがある。

学生・生徒に対する旅客運賃割引の制度は、修学に伴う父兄の経済的負担を軽減し、学校教育の振興に寄与する目的をもつて、日本国有鉄道の負担において実施されているものでありますが、学生・生徒の一部には、これを不正に使用したり、制度の趣旨に反して乱用したりする者があることは、まことに遺憾であります。

ついては、各学校における発行または各都道府県における交付に際しては、今後、別紙の「取扱要領」により、使用目的の適正化、使用枚数の規制および不正使用の防止をはかりたいと存じますので、格別の御配慮をお願いします。(以下略)
(文部事務次官通達昭和33年7月5日・文大生第25号)

この通達は、「別紙」としてさらに続けて、「学割証は、割当枚数の範囲内で、学生・生徒個人の自由な権利として使用することを前提としたものではな」い、とまで断じており、この部分には異議なしとしないが、本文で「日本国有鉄道の負担において実施」と明記している点は、強調してもし過ぎることはない(いうまでもなく、日本国有鉄道とは、現在のJRグループのことである)。

つまり、運賃の学割制度は、「学校教育の振興寄与」を目的とする制度であり、本来は文教行政が負担すべきところ、事業者の「厚意」で成り立っているのだ。

今回の不正乗車に関し、一部からは、「サッカー部員が練習場に通うのも『通学目的』に含まれる」などという、「開き直り」意見も聞かれる。なるほど、立法論としては傾聴に値するが、事業者が一方的にコスト負担を強いられている現実をまったく無視した空論である。

巷には、ラーメン屋から携帯電話に至るまで、「学割」が溢れている。学生として、恩恵を受けられる身分のうちは意識しないだろうけれど、誰が最終的にコストを負担しているのか、これを機会に考えてみるのもよいだろう。

学生各位におかれては、学割制度の趣旨をご賢察のうえ、「ルールを守って、正しい乗車」を銘記していただきたい。