秋霜烈日

夕方、本学で大阪地検交通部長の城祐一郎検事の講演があった。

城検事は、なんと検事人生の半分以上が「特捜部」勤務という、絵に描いたような「特捜検事」である(検事として優秀、ということでもある)。エスプリに富んだ講演内容は非常に興味深く、検察官の魅力を再認識させられた。

日本の刑事裁判は、しばしば「自白偏重」と批判されるけれども、密室で行なわれる犯罪の全貌を知っているのは、世界中で犯人ただ一人なのだ。適正な刑罰権の発動のため、自白はきわめて重要なのである。また、城検事は、「再犯防止」という観点から、被疑者を自白させることの意義を強調された。

頑強に否認を続けていた被疑者が、ある一線を越えた瞬間、ぼろぼろと涙を流して、「落ちる」。犯人の更生は、罪を認めるところから始まる。具体的な事件を挙げて、「忘れられない体験」と、城検事が語った内容は、私自身の記憶とも一致した。

さて、城検事の講演で最も感動したのは、質疑応答で、「いわゆる『ヤメ検』弁護士をどう思うか」と尋ねられた時のことだ。

ヤメ検」とは、検察官を辞めて、弁護士に転じた人のことで、難しい刑事弁護を売りにする人たちが多い。検察の「手の内」を知っているのだから、当然といえば当然である。現在、東京地裁で公判中のライブドア元社長・堀江貴文の弁護人も、元特捜の「ヤメ検」だ。

城検事は、個人的見解だが、と断ったうえで、こう語った。
ヤメ検は好ましくは思わない。彼らがやっているのは、自分たちがやってきたことを否定することではないか。自分が検察を辞めた後も、後輩にはきちんと仕事をしてほしい。それを邪魔するのは理解できない」
そして、こう断言された。
「私自身は、検察官を退官しても、弁護士登録するつもりはない」

私は、同じく検事志望の友人と顔を見合わせ、大きく頷いた。検事たるもの、こうあるべきだと思う。

「普通の人が、安心して、普通に暮らせる社会を守りたい」と、城検事は強調された。私利のためではなく、公正な社会を実現するために―。

城検事の胸元に光る「秋霜烈日」のバッジが、いっそう輝きを増して見えた。