試験よ,さらば!

中学入試,大学入試,ロースクール入試,司法試験…。

これまで,数え切れないくらいの試験を受けてきたが,これほど大がかりな試験としては人生最後であろう「二回試験」が,今月19日水曜日に始まり,26日水曜日に終わった。

この「二回試験」という呼び名は俗称で,正式には「司法修習生考試」(考試)という。法曹資格を得るためには司法試験に合格しなければならないが,司法試験合格は法曹資格取得の「必要条件」であって,「十分条件」ではない。「考試」に受かって初めて,法曹資格が得られ,裁判官,検察官または弁護士になることができる(もっとも,当たり前のことだが,裁判官・検察官には,採用されない限り,なることはできない)。

考試は,位置付けとしては「ミニマムスタンダードのネガティブチェック」とされていて,「とても法曹資格を与えるわけにはいかない」と判断された者が落とされる。何も,修習生を選りすぐる試験ではない。この点,これまでの試験とは,著しく趣を異にする。

実際,9割以上の修習生は,「難なく」か「危うく…」かはさておき,考試をパスしていく。

だが,結果からみればそうであっても,不合格の場合のリスクの大きさからくる精神的負担は,相当なもので,考試直前の司法研修所は,異様な雰囲気に包まれる。普通の試験ならピリピリするだけなのだろうが,修習終了後に向けた準備(公私ともに)などもあって,倒錯した昂揚感のようなものも漂い,えもいわれぬ空気であった。

考試は,刑事裁判・民事裁判・検察・刑事弁護・民事弁護の5科目が1日1科目ずつ実施される。「なんだ,1日1科目か」などと思ってはいけない。

10時20分に始まる1科目の試験が終了するのは,17時50分である(昼食は,12時から13時までの間に,記録を読みながら,あるいは答案を書きながら,各自の席で取る)。問題に相当する事件記録(実際の事件をモディファイしたもの)は,各科目概ね100ページ強あるが,7時間30分で,それを読み込んだ上で,平均してA4のレポート用紙30枚くらいの答案を書き上げる。

ちなみに,答案作成に使う黒のペンは,ペンの種類にもよるが,3日(すなわち,3科目)でインクが空になる。

はっきりいって(はっきりいわなくても),非常にしんどい。

私は,日常的に交わされる「お疲れさま」というあいさつが好きではなく,口では「お疲れさま」と返事しつつも,「いや,別に疲れてへんから」と,心の中で言い返しているのだが(この点には異論が多かろうが),今回ばかりは,本心から,「お疲れ」と言った。

ともかくも,考試に翻弄された一週間は,嵐のごとく過ぎ去った。

これから,12月17日の修習終了日まで,「自由研究日」が続くが,考試の嵐で破壊された心身の回復が済んだら,次のステップに進まねばならない。

もう,試験を受けることはない。だが,それは,一等航海士(副操縦士)から船長(機長)に昇進するようなもので,これからは,事件記録の中に隠されたあるべき正解を探すのではなく,自ら主体的に判断をして,事件を処理していかなければならないことを意味する。

きょう(27日),私は,明け方5時まで秋田の同期と飲み,カラオケを歌った後,睡眠2時間で起き出し,一人で,房総半島を鉄道で横断してきた。冷たい雨に降り込められた車窓を眺めながら,そんなことを考えていた。